ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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 アイリスの視界に灰色の世界に白黒の画像が映る。

 整えられた花咲く庭園。
 庭園の奥に東屋があるのが見えた。

 これは、王宮の庭?
 アイリスの花がたくさん咲いてる。紫、黄色、ピンク…多いのは紫。薄い色から濃い色、赤が強いものから青が強いものまで、種類は色々だけどアイリスが。
 …あれ?
 今の王宮の庭にはこんなにアイリス植えてないよね?
 でもあの東屋は見覚えあるし、ここが王宮の庭なのは間違いないけど…

 遠くに見える東屋に人影があるのにアイリスは気が付く。
 ん?誰だろう?
 すると、アイリスの注目に合わせたように、段々と画像が東屋に近付くように動き始めた。
 人影が大きくなって来て、アイリスの心臓がドキンッと跳ねる。
 あの青紫色の髪、ウォルター殿下?

 東屋のベンチに座り、足を組んで手に持った書類を眺めているのはウォルターだった。
 な、何か、大人っぽい。と言うか、大人だわ。
 前に見た結婚式の画像よりも、もっと大人の男性って感じ。三十歳くらいなのかな?
 何となく憂い気な表情も…格好良い。
 ドッドッドッと打つ自分の鼓動を感じる。

 何かに気が付いたように書類から視線を上げるウォルター。
 誰かに呼ばれたのかな?
 わっ!こっち見た!!
 ウォルターが東屋の外を見ると、ちょうどアイリスの方を見られているような視線の向きになった。
 ウォルターに見つめられているかのような感覚にアイリスの心臓は忙しなく跳ねる。

 ふと、ウォルターが優しく微笑んだ。

 …え?
 今まで見たこの白黒画像の中のウォルター殿下は泣いてたり怒ってたり不機嫌そうだったりで…あんなに優しい笑顔初めて見た。
 まるで…そう、まるで恋人へ向けるみたいな、笑顔。

 優しく微笑むウォルターは東屋を出て両手を広げる。
 誰かを抱き止めようとするかのように。

 誰…?
 ここに現れて、ウォルター殿下と抱き合うのは、誰?
 
 ドクドク脈打つ心臓が、絞られるように苦しく痛い。

 ウォルターが腕を広げたまま、膝を曲げて姿勢を低くすると、髪とドレスの裾を靡かせながら現れた女の子が、勢い良くウォルターの首に抱きついた。

 ウォルターに抱きついたのは五、六歳くらいの女の子だ。
 子供…もしかして、ウォルター殿下の娘…?
 愛おしそうに女の子を抱きしめて髪を撫でるウォルターの唇が
「アイリス」
 と動いたように見える。

 と、その時、アイリスは眩しい光を感じた。

 -----

「うぅ…」
 眩しい。

 アイリスが薄っすらと目を開けると、誰かがアイリスの顔を覗き込んでいた。
「!」
 目を見開くアイリス。
 そうだ、私、休憩所で薬品を嗅がされて気を失ったんだわ!
 じゃあ目の前で私の顔を覗き込んでるのは犯人!?

「目が覚めたみたいだな」
 何となく呑気にさえ聞こえる口調で目の前の男性が呟いて覗き込んでいた身を起こす。

 光が当たって見えたのは、濃い紫の短い髪、同じく濃い紫の瞳、意志の強そうな眉。
「ス…ステファン殿下!?」
 ガバッと起き上がるアイリス。
 驚くアイリスを見て、苦笑いを浮かべる男性。

 アイリスの寝かされたベッドに腰掛けているのはこの国の第二王子ステファンだった。
 ステファンの濃い紫の髪を見て、アイリスはハッとする。
「あ、爆発!ウォルター殿下は!?」
「ああ…爆発は坑道の奥で、ウォルターや兄上たちとは離れた位置だ。多少の怪我はあるかも知れないが、大事ないだろう」
「多少の怪我って…」
 ウォルター殿下が怪我をしたかも知れないって事?でも大事ないって…爆発の位置まで知ってるって事は爆発を起こしたのはステファン殿下?
 何で?
 ウォルター殿下は本当にご無事なの?

「お前、ヴィクトリアじゃなかったんだな」
「!!」
 ステファンの言葉にアイリスは自分の目の上へ手をやり、ざあっと血の気が引くのを感じる。
 眼帯!してない!
「何だったか…妹の」
 ステファンが思案しながら言い、アイリスはごくんと息を飲んだ。
「…アイリスです」
「ああ」

「ファン、お客様の目は覚めた?」
 アイリスたちのいる部屋の扉から金髪の女性がひょいっと顔を出す。
「ああ。やはりヴィクトリアの妹だったぞ。アイリスだそうだ」
「やっぱり。眼帯をしている割に取っても傷痕もないからおかしいと思ったのよ」
 うんうんと頷きながらアイリスとステファンの方に近付いて来た女性。
「しかし話には聞いていたが、こんなに近くで見ても似ていると思うとはな。本当に良く似た姉妹なんだな」
 ステファンがアイリスに顔を近付けてじっと見ると、女性がステファンの頭に手を置いて、顔が離れるように後ろへと手を引いた。
「ファン、近過ぎよ」
 にっこり笑ってステファンを見る女性に、ステファンは眉を上げて揶揄うように言う。
「妬いてるのか?ルウ」
「違うわよ!」
 女性は頭に置いていた手でペシンッとステファンの頭を叩いた。



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