ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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 王子の頭を叩くこの女性、一体何者?
 でもステファン殿下の事「ファン」って呼んでるみたいだし、もしかしてステファン殿下が王子だって知らないとか? 
「アイリスちゃん?色々混乱してるでしょう?ごめんなさいね」
 ステファンがルウと呼んでいた女性がアイリスににっこり笑い掛ける。
 アイリスはその女性に既視感を覚えた。

 女性は金の髪を纏めて無造作に一つ結びにしていて、着ているものはシンプルな白いブラウスに、飾りのない柿渋色のフレアスカートと、所謂「どこにでもいる一般庶民」のもの。
 アイリスが居る場所も、ベッドの置かれた小さな部屋の向こうには台所や小さな居間があるだろう、極庶民的な家のようだ。

 でも、この女性ひと肌がすごく綺麗。それに美人で姿勢も良い。
 所作もとても綺麗だわ。今もステファン殿下の肩に置いた手が指先まで綺麗に揃ってる。
 どこかで見たような…?でもこの女性ひととは直接の知り合いじゃないような気がするな。
 誰かに似てるのかな?
「アイリスちゃん?」
 黙って自分を見つめるアイリスを不思議そうな表情で見ている女性。
 その翡翠色の瞳と視線がぶつかって、アイリスの頭にある人物が浮かぶ。

「ラウル殿下…?」
 そうだわ。
 ラウル殿下に似てるんだ。
 もちろんそっくりって訳じゃないけど、瞳の色は同じだし、目鼻立ちとか雰囲気とかが似てる。
「ルウ」
 眉を上げてニヤニヤしながらステファンが言うと、ルウと呼ばれた女性は苦笑した。
「思ったより早くラウルに行き着いたわね」
 ステファンに肩を竦めてみせてから、アイリスの方へ向き合うと、女性はスカートを摘んで礼をする。
「はじめまして。ルイーザ・バッハシュタインです」

 ルイーザって、休憩所で鉱夫たちみんなが話してた時名前が出て来てた、ラウル殿下のお姉様…
 つまり、東国の王女殿下じゃないの!!
 アイリスがルイーザに挨拶をするために慌ててベッドから降りようとすると、ステファンがアイリスの肩を押さえた。
「畏まった挨拶などしなくて良い」
「でも」
「ここに居るのはルイーザではなくルウだ。そもそも、俺だって王子なのに、ルウにだけ挨拶するとはどういう事だ?」
 ステファンが片眉を上げて言う。
「…そ、れは」
 言い淀むアイリス。
 正直、攫われて目が覚めたらステファン殿下がいたっていうのが意外すぎて、挨拶とか全然頭に浮かばなかったわ。

 ステファンの横に立つルイーザが面白そうに二人を見ていた。
「そう…ですね」
 アイリスは立ち上がろうと浮かせていた腰を下ろしてベッドの上に正座をする。
「アイリス・ガードナーです。ウォルター殿下の婚約者のヴィクトリアの妹です」
 そのままルイーザとステファンの二人に頭を下げた。

「じゃあとりあえずお茶でも飲みましょうか」
 ルイーザが胸の前で両手の平を合わせながら言う。
「え?」
 アイリスが頭を上げると、ルイーザはにっこりと微笑んだ。
「アイリスちゃんに聞きたい事がたくさんあるし、アイリスちゃんの方も聞きたい事たくさんあるでしょう?」
 聞きたい事、うん。それはたくさんある。
 まず、ここはどこなのか。
 それから、ルイーザ様は駆け落ちしたはずなのに、何故ステファン殿下と一緒にいるのか。
 私を…ううん「ヴィクトリア」を攫ったのはステファン殿下たちなのか。
 坑道の爆発の事を知ってたのは、それを起こしたのがステファン殿下だから?

 それに、ウォルター殿下は本当に無事なの?
 ケイシーは?気を失うほど殴られたんだもの、大丈夫なんだろうか…?

「じゃあまずはアイリスちゃんに、寝室ここを出たら私たちの事を絶対にルイーザやステファンと本当の名前では呼ばないようにお願いするわね」
 ルイーザが人差し指を立てて言う。
「え?」
「私の事は『ルウ』ステファンの事は『ファン』ね。もちろん『殿下』や『様』も禁止よ?」
「え!?『様』もですか!?」
 と、なると、第二王子や東国の王女を呼び捨てで?
 無理。無理だわそれは。
 もちろん駆け落ちしたというルイーザ様が身分を隠してるんだろうって事はわかる。
 わかるけど、せめて「様」は許して欲しい。

「まあ私もファンもアイリスちゃんより歳上だし、呼び捨てはしにくいでしょうから『さん』なら付けて良いわ」
 それも充分不敬だけど、本人の希望だし、呼び捨てよりは敷居は低いか…
「じゃあ…ルウさん、ファンさん?」
 アイリスがそう言うと、ルイーザとステファンは揃って頷いた。



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