ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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 意識だけが宙に浮いた俺の視界に、最初に見えたのはベッドに横たわるヴィクトリア様だった。
 穏やかな表情で眠っているヴィクトリア様の様子に俺は安堵する。
 俺はどうやらあの事故で死んでしまって、今幽霊のような存在になっているようだが、ヴィクトリア様を助けられたならば本望だ。

 初めてアイリスをヴィクトリア様に会わせた、あの時、アイリスの頭をくしゃくしゃと撫でた俺に、ヴィクトリア様が向けた
 あれは、恐らく嫉妬だ。
 それからも、俺とアイリスが仲良くしていると、微笑ましく見守るヴィクトリア様の表情の中に小さな違和感が見える。
 ほんの少しの、嫉妬。

 アイリスに嫉妬していたのか、俺に嫉妬していたのか、本当の処は定かではない。
 でも俺は、自分がヴィクトリア様に好かれているような気になれるので、ヴィクトリア様のあの表情を見るのが好きだった。

 次に見えたのは、アイリスの遺体を安置した部屋で立ち竦むウォルター殿下。
 表情を失くしたウォルター殿下の手にはハンカチが握られていて、その端にアイリスの花の意匠の刺繍が見えた。
 ああ…この方はアイリスを特別に思っていた。
 ヴィクトリア様と婚約してからはそんな様子は全く見せなかったが、アイリスやヴィクトリア様、セラフィナ殿下と一緒にいる時、よくアイリスを見ていた。
 と言っても、決して不自然ではない。
 ヴィクトリア様へ向けるより、アイリスへ視線を向ける時間の方が、ほんの少し長い。それだけだ。

 それは俺がヴィクトリア様の婚約者であるウォルター殿下を注視していたから気が付いただけ。
 アイリスはもちろん気付いていない。
 ヴィクトリア様もセラフィナ殿下も、他の事でウォルター殿下のアイリスへの気持ちに気付いたかも知れないが、視線の長さで気付くのは俺くらいのものだろう。

-----

 目覚めたヴィクトリア様とウォルター殿下が初めて会った後、ウォルター殿下の態度が変わる。
 冷たい瞳でヴィクトリア様を見て、無表情で話す。
 声は聞こえないが、ヴィクトリア様はいつもウォルター殿下と会った後には一人で涙を流していた。
「ごめんなさい」
「私のせいで」
 そう唇が動くのがわかる。

 会話が聞こえないからハッキリとはわからないが、見える人物の唇を読んだり、その場にある書類などを見る限り、ヴィクトリア様は俺とアイリスが死んだのは自分のせいだと思っているようだった。
 そしてウォルター殿下はヴィクトリア様を恨んでいるように見える。

 あの事故が、ヴィクトリア様のせい?
 あれは、王妃派の貴族がヴィクトリア様を亡き者にしようとしたんだろう?
 俺とアイリスは巻き込まれただけで…
 アイリスには気の毒な出来事だったが、俺はヴィクトリア様を助けられて満足しているのに。

 …は?
 あの日、あの事故が起こる事を、ヴィクトリア様は知っていた…?
 では何故、ヴィクトリア様は自らの暗殺計画にむざむざ引っ掛かったんだ?

 断片的に見える、ヴィクトリア様とウォルター殿下の学園の卒業パーティーの様子。婚姻の儀。王宮での結婚生活。
 ……どの場面でもヴィクトリア様は悲しい表情をし、ウォルター殿下は険しい表情だ。

 そして。

 娘を産んだヴィクトリア様は出血が止まらず──

 …嘘だ。
 ヴィクトリア様にこんな悲しく寂しい人生を送らせるために、俺はヴィクトリア様を助けたのか?

 こんな結末は駄目だ。
 駄目だ!
 駄目だ!!

 そう強く思った時、俺の視界はまた暗闇に包まれた。

-----

「ちょっとジェイド『様』はどこに行ったのよ?」
 ハッと気付くと、のガードナー家の玄関前。のアイリスが俺の目の前に居た。

 身体が、ある。
 手が動く。足も動く。
 声が聞こえる。

「おっと。アイリス様、おはようございます。…どうもアイリスが『お嬢様』だと言う事に慣れなくて。顔はヴィクトリア様にそっくりなのに、違うモンだよなぁ」
 声も出る。
 でも違う。こんな事を言いたい訳じゃない。
 あの日に戻れた?
 どんな奇跡かわからないけれど、あの日をやり直せるなら、これから馬車に乗って王宮へ行くのを止めなければ。
「……」
 アイリス、王宮へ行くのはやめよう。
 そう言いたいのに、声が出ない。

 あの日交わした通りの会話なら、スムーズに言葉が出た。
 ヴィクトリア様が玄関から出てくる。
 ああ、ヴィクトリア様。
 貴女が不幸になるのを、俺は容認する訳にはいかない。
 止めたい。
 貴女がどんな思惑でこれから事故に遭う事を知っている馬車に乗り込むのか。俺には理解できないけれど、ヴィクトリア様が苦しむ未来など許せる訳がない。



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