ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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 暗闇から、ヴィクトリア様のその後、暗闇、のループを繰り返した。
 何かを変えようと色々画策したが、結局、同じ会話を交わして馬車に乗り、そして事故に遭う。
 いつも俺とアイリスは死に、ヴィクトリア様が生き残る。
 予定を変えようとしても駄目だった。
 馬を変えたり、馬車を壊したりもしてみたがそれも駄目。
 何度このループを繰り返してもヴィクトリア様は幸せにならない。

 だとしたら、もういっそヴィクトリア様もあの事故でいなくなってしまえば…?

 その考えに至った時、ゾクリと身震いした。
「しかし…思うように身体も動かせないのにどうすれば…?」
 あの日の行動と違う事をしようとすると、身体が動かなくなる。
 では、少しでも違う方向に動く事ができるだろうか?
 それからはループの度にほんの少しだけと違う事ができないか、何度も試した。
 繰り返している内にコツというか、可動範囲のような物がわかって来る。

 そして、俺は、もう何度目かわからない程繰り返した、事故の瞬間に、一歩、足を踏み出す方向を変えた。
 ヴィクトリア様の方ではなく、アイリスの方へと。

-----

「違う。俺は、ヴィクトリア様にそんな事をさせるために何度もをやり直した訳じゃない!」
 ジェイドはそう言うと、悲痛な表情でヴィクトリアを見る。
「ジェイド…?」
 ヴィクトリアがソファから立ちあがろうとすると、ジェイドは目を逸らして「申し訳ありません」とフランクへ頭を下げ、足早に執務室から出て行った。

「『あの日をやり直した』とは、どう言う事だ?」
「さあ…わかりません」
 フランクがニコラスへ問うが、ニコラスは首を横に振る。
「お父様、私ジェイドと話してみます」
「ああ」

 ヴィクトリは父の執務室を出ると廊下の左右見るが、廊下に人影はなかった。
 ジェイドたちの暮らす住み込みの使用人部屋や、厨房などに行くには廊下の左にある使用人用の階段を降りるのが近い。
 しかしそれはこの屋敷の令嬢であるヴィクトリアは普段は通らない階段だ。
 廊下を左に進んだヴィクトリアは階段の所で立ち止まった。
「手摺りが…」
 表の階段に比べて狭いその階段には手摺りがない。
 お父様の執務室へ行くのも休み休みだったのに、まだ覚束ないこの足で手摺りのない階段を降りられるだろうか…
 でも、今ジェイドと話をしたい。

 ヴィクトリアは壁に片手を付けそろりと足を下ろす。
 ゆっくりと階段を下りて行き、踊り場を回った所で階段の途中で座り込み、項垂れているジェイドの後ろ姿が見えた。
「ジェイド」
 ヴィクトリアが呼ぶと、ジェイドは顔を上げて勢いよく振り向く。
「ヴィクトリア様!?」
 驚いて立ち上がるジェイド。

「どうしてこんな所へ」
「ジェイドと話がしたくて…」
 ヴィクトリアが階段を下りようとすると、カクンと足の力が抜けた。
「!」
 ヴィクトリアの身体が傾いだのを見て、ジェイドが階段を駆け上がる。
「危ない!」
 ジェイドが両手を広げてヴィクトリアを受け止めた。

 ジェイドの首に抱き付くような形になったヴィクトリア。
「大丈夫ですか?」
 耳元でジェイドの声が聞こえ、階段を落ちそうになったのと、ジェイドに抱き付いている状況に、ヴィクトリアの心臓がバクバクと鳴る。
「…どうしよう」
「ヴィクトリア様?」
 ヴィクトリアはジェイドの首に回した両手にギュッと力を入れた。

 偶然でもこんな風に触れ合う事なんて、一生に一度もないと思っていたのに。
 ジェイドの声を間近で聞いて、腕を、肩を、胸を、体温を感じて、私、喜んでいるわ。

 …ああ…どこまで私は浅はかで浅ましい人間なんだろう。
 
「…ごめんなさい」
 ヴィクトリアが腕の力を緩めて身体を離そうとすると、ジェイドは無言でヴィクトリアの膝を掬い上げ、横抱きに抱き上げた。
「ジェイド!?」
 驚いて声を上げるヴィクトリア。
「好きです」
 ……え?
 ヴィクトリアは耳に入って来た言葉を理解できないまま、ジェイドを見る。
 ジェイドは泣きそうな表情でヴィクトリアを見ていた。
「…ジェ」
「部屋まで送ります」
 ジェイドはそう言うと、ヴィクトリアから目を逸らして階段を登り出す。
 今、好きですって……聞き間違いかしら?

 無言のまま、ヴィクトリアの部屋の前まで来ると、ジェイドはそっとヴィクトリアを降ろした。
 扉の前で向かい合う二人。
「……あの、ジェイド、さっき…」
 ヴィクトリアがそう言い掛けた時、廊下の向こうからヴィクトリア付きの侍女が急ぎ足でやって来る。
「ヴィクトリア様」
「…どうしたの?」
 侍女に視線を向けると、ジェイドが礼をしてその場を去ろうとした。
「待ってジェイド。まだ話が…」
 ジェイドを引き止めようとするヴィクトリアに、侍女が慌てたように言う。
「ヴィクトリア様、ウォルター殿下がお見えです」



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