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どうしてウォルター殿下が?
今はまだ銀の連山での視察中の日程よね?
「ジェイド様も一緒に来て欲しいと、応接室でお待ちです」
「俺も?」
ジェイドが自分を指差すと、侍女は「はい」と頷く。
「殿下は今は旦那様とお話されていますが『時間がないので早く』と仰られていました」
「わかったわ」
侍女が去って行き、ヴィクトリアとジェイドは顔を見合わせた。
「……」
「……」
ジェイドは無言で首を傾げ、ヴィクトリアも考え込む。
ウォルター殿下がジェイドにも用があるとは一体何?
それに時間がないとは?
もしかしてアイリスに何かが?
「…アイリスに何かあったのかしら?」
「アイリスに?」
「ええ。例えばアイリスが私ではないと東国の王太子殿下たちに露見したとか。アイリスが…怪我をして身代わりができなくなったとか…」
…何だか本当にそうなのかも知れないと思えて来たわ。
それで私の代わりをするアイリスの、更に代わりをする者が必要になった、とか?
「とにかく、話を聞いてみなくてはわかりません。あまり殿下をお待たせする訳にはいきませんし、とりあえず行きましょう」
ジェイドは言う。
「ええ…そうね」
「歩けますか?また抱いて行きましょうか?」
ニヤリと笑って言うジェイド。
「…歩けるわ」
そうヴィクトリアが言って歩き出すと、ジェイドもヴィクトリアの半歩後ろに着いて歩き出した。
「そうですか」
いつものジェイドに戻った…?
さっきの言葉とか、「あの日をやり直した」とはどう言う意味なのかとか、聞きたい事もあるけど、何だか何も答えてくれない気がする。
無言のまま、応接室の前に来る。
ジェイドが扉をノックすると、中から扉を開けたのはニコラスだった。
部屋の中にはソファに座るウォルターとフランク、ウォルターの後ろの壁側にはウォルターの側付きのデリックが立っている。
「それでは、私はこれで失礼いたします」
フランクはソファから立ち上がると、ウォルターに一礼をしてヴィクトリアたちが立つ扉の方へと歩いて来た。
「ヴィクトリア、修道院へ行くと言う話は無しだ」
ヴィクトリアの肩に手を置いてフランクが言う。
「え?」
「詳しい事は殿下から伺いなさい」
フランクはヴィクトリアの肩をポンポンと軽く叩いて、ニコラスと共に応接室を出て行った。
「ヴィクトリア、座って」
ウォルターが微笑んで、先ほどまでフランクが座っていた自分の向かいのソファを指し示す。
「…はい」
修道院へ行く話、お父様は保留ではなく、無しだと言われたわ。
ヴィクトリアがソファに腰掛けると、ジェイドはヴィクトリアの後ろに立った。
-----
廊下を歩くフランクと後ろを歩くニコラス。
「旦那様は宜しいのですか?」
ニコラスが眉間に皺を寄せて言う。
「まあ…思う所はあるが、そもそもの釦の掛け違いはこちらのせいでもあるからな」
ため息混じりにフランクが言うと、ニコラスもため息を吐いた。
「掛け違い…そうですね」
「ウォルター殿下は、本当は『ガードナー伯爵家の令嬢』ではなく『ガードナー伯爵家の次女』に婚約を申し入れたかったのだから…」
フランクはそう言って苦く笑う。
王家から内々に第三王子ウォルターとの婚姻の打診があった際、ウォルターはガードナー家の次女をと希望していると聞いた。
しかしフランクもマティルダも、王子の妃に次女アイリスは相応しくないと考えた。
まずはアイリスの母親が平民の出である事。
その母親の実家の質店も経営破綻し、その家族は少なからぬ借財を抱えていた。フランクが娼館に行こうとしていた母オリビエを「身請け」し、実家へも定期的に資金援助をしていたと言う事情もあり、オリビエの親族が、王家と繋がりができる事を利用しないかと危惧した面もある。
更にマティルダの「正統な血筋の王子は正当な令嬢を娶るもの」という主張もあいまり、婚約の打診に「次女ではなく長女なら」と返答したのだ。
それでも正式な申し込みがあった時、文書に書かれた相手が「ガードナー伯爵家の令嬢」となっていたのはウォルターなりにフランクの考えが変わるかもと、最後の望みを賭けたのだろうと思っている。
「娘二人をこんなに急に手離す事になるとはな…」
フランクは小声で呟いた。
しかしあの事故で、王妃派の目論見通りにヴィクトリアを、マティルダの企み通りにアイリスを、失っていてもおかしくなかった。
それを思えば、娘二人とも生きていてくれるだけで御の字だろう。
フランクはそう思いながら執務室へと戻って行った。
どうしてウォルター殿下が?
今はまだ銀の連山での視察中の日程よね?
「ジェイド様も一緒に来て欲しいと、応接室でお待ちです」
「俺も?」
ジェイドが自分を指差すと、侍女は「はい」と頷く。
「殿下は今は旦那様とお話されていますが『時間がないので早く』と仰られていました」
「わかったわ」
侍女が去って行き、ヴィクトリアとジェイドは顔を見合わせた。
「……」
「……」
ジェイドは無言で首を傾げ、ヴィクトリアも考え込む。
ウォルター殿下がジェイドにも用があるとは一体何?
それに時間がないとは?
もしかしてアイリスに何かが?
「…アイリスに何かあったのかしら?」
「アイリスに?」
「ええ。例えばアイリスが私ではないと東国の王太子殿下たちに露見したとか。アイリスが…怪我をして身代わりができなくなったとか…」
…何だか本当にそうなのかも知れないと思えて来たわ。
それで私の代わりをするアイリスの、更に代わりをする者が必要になった、とか?
「とにかく、話を聞いてみなくてはわかりません。あまり殿下をお待たせする訳にはいきませんし、とりあえず行きましょう」
ジェイドは言う。
「ええ…そうね」
「歩けますか?また抱いて行きましょうか?」
ニヤリと笑って言うジェイド。
「…歩けるわ」
そうヴィクトリアが言って歩き出すと、ジェイドもヴィクトリアの半歩後ろに着いて歩き出した。
「そうですか」
いつものジェイドに戻った…?
さっきの言葉とか、「あの日をやり直した」とはどう言う意味なのかとか、聞きたい事もあるけど、何だか何も答えてくれない気がする。
無言のまま、応接室の前に来る。
ジェイドが扉をノックすると、中から扉を開けたのはニコラスだった。
部屋の中にはソファに座るウォルターとフランク、ウォルターの後ろの壁側にはウォルターの側付きのデリックが立っている。
「それでは、私はこれで失礼いたします」
フランクはソファから立ち上がると、ウォルターに一礼をしてヴィクトリアたちが立つ扉の方へと歩いて来た。
「ヴィクトリア、修道院へ行くと言う話は無しだ」
ヴィクトリアの肩に手を置いてフランクが言う。
「え?」
「詳しい事は殿下から伺いなさい」
フランクはヴィクトリアの肩をポンポンと軽く叩いて、ニコラスと共に応接室を出て行った。
「ヴィクトリア、座って」
ウォルターが微笑んで、先ほどまでフランクが座っていた自分の向かいのソファを指し示す。
「…はい」
修道院へ行く話、お父様は保留ではなく、無しだと言われたわ。
ヴィクトリアがソファに腰掛けると、ジェイドはヴィクトリアの後ろに立った。
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廊下を歩くフランクと後ろを歩くニコラス。
「旦那様は宜しいのですか?」
ニコラスが眉間に皺を寄せて言う。
「まあ…思う所はあるが、そもそもの釦の掛け違いはこちらのせいでもあるからな」
ため息混じりにフランクが言うと、ニコラスもため息を吐いた。
「掛け違い…そうですね」
「ウォルター殿下は、本当は『ガードナー伯爵家の令嬢』ではなく『ガードナー伯爵家の次女』に婚約を申し入れたかったのだから…」
フランクはそう言って苦く笑う。
王家から内々に第三王子ウォルターとの婚姻の打診があった際、ウォルターはガードナー家の次女をと希望していると聞いた。
しかしフランクもマティルダも、王子の妃に次女アイリスは相応しくないと考えた。
まずはアイリスの母親が平民の出である事。
その母親の実家の質店も経営破綻し、その家族は少なからぬ借財を抱えていた。フランクが娼館に行こうとしていた母オリビエを「身請け」し、実家へも定期的に資金援助をしていたと言う事情もあり、オリビエの親族が、王家と繋がりができる事を利用しないかと危惧した面もある。
更にマティルダの「正統な血筋の王子は正当な令嬢を娶るもの」という主張もあいまり、婚約の打診に「次女ではなく長女なら」と返答したのだ。
それでも正式な申し込みがあった時、文書に書かれた相手が「ガードナー伯爵家の令嬢」となっていたのはウォルターなりにフランクの考えが変わるかもと、最後の望みを賭けたのだろうと思っている。
「娘二人をこんなに急に手離す事になるとはな…」
フランクは小声で呟いた。
しかしあの事故で、王妃派の目論見通りにヴィクトリアを、マティルダの企み通りにアイリスを、失っていてもおかしくなかった。
それを思えば、娘二人とも生きていてくれるだけで御の字だろう。
フランクはそう思いながら執務室へと戻って行った。
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