ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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「アイリス!!」
 …誰か……呼んでる…?
 薄っすらと目を開けると、アイリスのぼやけた視界に橙と赤色に混じって紫色の光が見える。
 ウォルター殿下…?
 殿下が……来てくれた…の…?

「アイリス!」
 …ああ…ウォルター殿下の声…だ…

 ふわりと身体が浮く感覚。
 そのまま、アイリスは意識を失った。

-----

 フランクの執務室を訪れたローレンは言い難そうに切り出す。
「旦那様…奥様が…」
「マティルダが、どうした?」
 執務机についたフランクが机の前に立つローレンを見上げた。
「……」
 ローレンの斜め後ろに立っているニコラスがローレンに歩み寄ると、背中に手を添える。
「ローレン」
「…はい」
 ローレンは頷くと、フランクを改めて見た。

「今朝、奥様が王妃派の貴族へ文を書かれておりました」
 目を閉じて、思い切ったようにローレンは一息に言う。
「何?」
「私が直接見たのは何かを書かれている姿だけなのですが、その後、奥様が王妃派の貴族との連絡の際に使っていたと思われる下男の姿が見えなくなりました」
「文を…届けに行ったという事か」

「奥様は、昔、アイリス様たちの事を知った時、その存在自体ではなく、隠し事をされた事の方を嘆かれていました。裏切られたと、今も憤っておられるんです。ずっと」
 ローレンは拳を握って涙を浮かべて言い、フランクは顔を顰めて俯いた。
「ああ…わかっている。しかしその憎しみをオリビエや…ましてやアイリスに向けるのは間違っている」
「はい。私は奥様にこれ以上間違いを犯して欲しくないのです。だから…奥様は、私にも裏切られたと思われるかも知れませんが、旦那様に奥様を止めていただきたくて…」
 涙を流しながら言うローレンの背中をニコラスが撫でる。
 俯いていたフランクは顔を上げると
「わかった」
 と立ち上がった。

-----

「どちらの屋敷に行っていたのです?」
 何食わぬ顔をして仕事に戻っていた下男にニコラスは声を掛ける。
「え…?ニコラス様、何の事でしょう?」
 顔を強張らせながら無理に作った笑顔の下男。
「とぼけますか?では王妃派の貴族を、ここから屋敷が近い順に挙げて貴方の表情を見ましょうかね?」
 ニコラスも目が笑っていない笑顔で言った。

-----

 マティルダはフランクと共に部屋に入って来たローレンを睨み付けると、フランクに笑顔を向ける。
「ローレンが私が何か書いているのを見たと?でもそれが王妃派への手紙とは限りませんよね?」
「もうわかっているんだ。マティルダ、どこにどんな内容の文を書いたのか、話してくれ」
 フランクはソファに座るマティルダの前に立って言った。

「わかっている、とは?」
 上目遣いにフランクを見るマティルダ。
「マティルダが、アイリスを殺したいほど憎んでいる事だ。しかし、マティルダが本当に憎んでいるのは私だろう?」
「…!」
 フランクの言葉にマティルダは瞠目する。

「私が…旦那様を殺したいほど憎んでいると…?」
「ああ」
「……」
 膝の上で握られたマティルダの手が小刻みに震え出した。
「奥様」
 ローレンがマティルダに駆け寄って、震える手にそっと手を添える。
「……裏切り者!」
 マティルダはそう言ってローレンの手を跳ね除けた。
「ローレンも私を裏切るのね!旦那様も!ニコラスも!ローレンまで!」
「違います奥様」
「違わないわ!!アイリスも!あの女も!皆で私の居場所を奪って行くのよ!」
 激昂するマティルダをフランクは憐れみの表情で見下ろした。
「あの女の娘は、私だけではなく、ヴィクトリアの居場所まで奪うつもりよ!だからヴィクトリアの婚約者を奪って、東国に逃げるつもりなんだわ!」

「マティルダ」
 フランクは落ち着いた口調でマティルダを呼ぶと、その前に跪く。
 はあはあと息をするマティルダの手を取った。
「…旦那様のせいです」
 マティルダの眼から涙が落ちる。
「ああ、そうだ。私のせいだ」
「う…うぅ…」
 フランクは泣き出したマティルダを抱き寄せて、頭をポンポンと優しく叩いた。
「すまなかった。もう二度とマティルダを裏切るような真似はしない」



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