神の翼

斗弧呂天

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告白

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少女は少しずつ視界が広がってきた。
そこには、うっすらと白い雲がかかった、薄水色の空があった。
「目が覚めたか。」
顔を誰かに覗かれる。
聞き覚えのある声だった。
「バルドゥル…?」
「ったく。一人でうろちょろすんなって言ったろ。」
少女は、バルドゥルに抱かれるようにして、地面に寝させられていた。
「あの男は?」
「大丈夫だ。消えた。」
「…あ…怪我…。」
バルドゥルの肩からは、血が滲み出ていた。
大分長いことこのままの体勢だったのだろう。
血が服の布を伝って、肩から腕、手首の手前まで垂れていた。
「…ごめんなさい…バルドゥル…こんな…。」
胸の奥から罪悪感が湧いて出てきた。
「いいんだ。」
「でも…あ、手当します!服の端切れを使えば、止血は出来ると思います。」
「…え、あ、いや、大丈夫だ。もう血は止まってる。」
「そんなことないですよ!だってそんな直ぐには…あれ?」
少女は立ち上がり、バルドゥルの肩に顔を寄せた。
しかし、なぜかどこにも傷口が見当たらない。
皮膚に血が付いてはいるが、服の破れたところには、全く何の傷跡もなかった。
そして少女は、辺りの茂みのあちこちに、自身の掌程もある大きな鳥の羽が散らばっていることに気がついた。
「あの、バルドゥル。ここは……?」
バルドゥルに向き直り、ようやく少女は、バルドゥルの背中のを認めた。
オオワシのような、巨大なそれ。
「…翼?」
「…。」
バルドゥルは沈黙した。
少女はバルドゥルに視線を戻した。
「…ああくそ。まずは家に帰ろう。話はそれからだ。」
「わっ、ちょっと!」
バルドゥルは少女を抱え上げ、有無を言わさず飛び上がった。


少女はベッドに、バルドゥルは椅子に腰掛け、互いに向き合った。
しばしの沈黙。
バルドゥルは無理に明るい口調で言った。
「実はな、何故か昔俺は翼が欲しかった。そしたら、次の朝、こんな風に翼が生えてたんだ。これは便利だぜ。どんなことをしたって逃げられるんだからな。逃げ足なら随分早くなったよ。それで、」
「バルドゥル。」
「?」
少女は自身の手に目線を落としながら言った。
「ごめんなさい。私、バルドゥルが優しい人だって分かっているから、余計に隠して欲しくないんです。…私が、辛くなるから。」
「…そうか。」
バルドゥルは深呼吸をして、話し出した。
これ以上、誤魔化せるわけが無いとは分かっていた。
「俺は、この森に住んでいる泥棒だ。」

バルドゥルは、全てを話した。
神の翼を盗んだこと。
森の民には、自分が勇者だと思われていること。
ウォータリアが、自分の力で国を救えるかもしれないと言ったこと。
これまで頑なに隠してきたこの話を、どうしてバルドゥルはこうも簡単に包み隠さず語れたのだろうか。
少女を納得させる方法が他になかったからかもしれないし、この理不尽な身の上を、誰かに話したかったからかもしれない。
バルドゥルが話していくうち、少女はだんだんと頭痛がしてきた。
特に、バルドゥルが「神の翼」と口にする度、それは大きくなっていった。
間違いない。
私は、「神の翼」を知っている。
理由はどうであれ、絶対知っている。
ただ、なぜ知っているのか、そもそもどこで知ったのか、全く分からなかった。
自身の記憶がまだ曖昧だったからだろう。
バルドゥルが話し終わったあと、少女は困惑した表情でバルドゥルを見つめた。
「ええと…つまり、その翼は神の翼と呼ばれていて、その翼が無くては、この国は戦争に負けてしまうと?」
「まあ、負けるって決まった訳じゃないぜ?その可能性があるってだけで、何も俺ひとりでどうこうできる話じゃ…。」
「さっきから、自分は特別じゃないとか、どうしてこうなったか分からないとか、英雄を気取りたくないとか…。どう言ったってあなたの背中に翼が付いているのは事実なんじゃないですか?その翼を国のために役立てようとは思わないんですか?」
少女は、自分で驚いていた。
なぜバルドゥルにこうも厳しい口調で責めているのだろう。
自我を思い出してきている証拠だろうか。
バルドゥルも少し驚いたような顔をしたが、苦笑して言った。
「俺は、英雄にはなれない。なっちゃいけない。」
その深い紺色の目には、淡い諦めの色が滲んでいた。
「…なぜ?」
少女が問う。
バルドゥルは…その男は…静かに言った。
「十歳の時だった……俺が両親を殺したのは。」
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