神の翼

斗弧呂天

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そして歴史は

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「順調か。ウィリアム君。」
「はい、まったく、これはすごい発見ですよ!こんな森の奥地にこんなものを創り出せる程高度な文明があったなんて!」
「かなり巨大な空間だな。美しいほど精巧な半球形を描いてる。それでいて道具で削った様な跡もほとんど無い。現代の技術を持ってしてもこれを作るのは難しいだろう。」
「中央には円形の窪みがあり、その中心には巨大な岩が置かれています。恐らく神を祀る神殿のような場所だったのでしょう。そして何より、壁に刻みつけられた、何種類もの文字の羅列!」
「かなり高いところから、床ギリギリまで書かれているな。…これは、ヘブライ文字か?」
「はい。他にも、アラム文字、ギリシア文字、アラビア文字など、かなり時代の幅があるんです。そしてそれらの文字が、原文に訳語のように付け足されているんです。誰がこんなことをしたんだか。時代を越えて、語り継がれてきた物語なんですかね。」
「…?ここ、元の文か?一体何語なんだ。」
「それが分からないんですよ。こんな文字、見たことありません。アラビア文字のような点や線があると思ったら、落書きみたいな曲線がはしってる。エラム線文字に近いような気がしなくもないんですが、絶対にありえない形の文字があったり…。」
「これは学会に提出しないとな。ところで、君はヘブライ語の研究をしていたね。文章は読めたのかい。」
「はい。今書き留めていたのですが、どうやら神話のような伝承話のようです。これもまた、聞いたこともない話で…なんでも、『神の翼』というのを持った人物が、救世主メシアとして民を救うといった内容です。まあまだ半分くらいしか解読出来ていませんが…。ただ…。」
「…どうした?」
「途中で劣化が激しく、肉眼では解読出来ないところがありまして。」
「ここか。確かに掠れて読めないな。」
「そこの直前で、一旦物語は終わっているんです。しかし、そのあとこう続いているんです。」



「『光あるところには、影がある。炎はやがて消え、暗闇だけが我らを包む。光が世界を成したように、闇もまた、一つの世界なのだ。』」

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