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遠い昔話(全訳)
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今から二〇〇年前、ルーフはかの偉大な妖精の王アビゲイルと人間の王エルドラゴによって建国された。
人間は荒涼とした土地を耕し、道を作り、谷には橋をかけた。
妖精は木々に果実を実らせ、様々な災害から人々を守った。
やがて国は大きくなり、豊かになっていった。
妖精と人間が共存し、認めあう世界が訪れたように思えた。
五〇年前の大戦までは。
ルーフの隣国のナハルザームの王ダンカは、幾千もの兵を従えルーフを攻め立てた。
ナハルザームは驚異のスピードでその領土を広げていて、平和の中で暮らしていたルーフの民は絶好の獲物だったのだった。
国は戦火に飲み込まれ、何百何千もの罪のないルーフの民が死んでいった。
多くの妖精たちは袋詰めにされ、兵士によって売りさばかれた。
ルーフの民の半数が死に、妖精が森の中から殆ど消えてしまった。
ダンカがルーフの殆どを手中に収めたかに思えたその時だった。
まばゆいばかりの光を放ち、大きな翼を空に広げた一匹の妖精が現れた。
妖精はその翼を翻すだけで、何百人もの敵兵を吹き飛ばした。
踏み荒らされた大地に妖精が足をつけると一瞬でそこから草花が広がり、兵士の剣や槍は木の枝に変わった。
これに恐れ慄いたダンカは兵を引き、ナハルザームへ逃げ帰った。
その名も無き妖精は、人々から英雄として崇められ、感謝された。
しかし、戦から直ぐにその妖精は重い病を患い、ニ日後に亡くなった。
妖精は死ぬ間際、自らの立派な羽根を切り落とさせて言った。
「私が死んでも、この国が危険に晒される時があれば、この翼を背中に生やした戦士が現れ、民を救い出すだろう。その戦士は今はその使命を知らぬ。だがこの翼がその者を勝利と平和へ導くと誓おう。」
初めルーフの民は、妖精の言ったこの「戦士」とは誰なのか、盛んに議論し合った。
しかし、時が経つにつれて、平和がその疑問をかき消していき、その翼は王宮で厳重に管理されたまま、誰の目にも触れなくなった。
しかし五十年後、再びルーフ国はナハルザーム国との戦闘を開始せざるを得なかった。
長年ナハルザーム国との間に結界を張っていた森の妖精の一人、ヴルスラが後の夜の民の覇者デルアリによって斃されたからである。
ナハルザーム国のカルダン王は、デアハラム高原に進軍し、ルーフ国軍と対戦した。
戦況は困難を極め、再び森に炎が上がった。
ちょうどその時だった。
カルダン王率いるナハルザーム国軍と、ヴィックス王率いるルーフ国軍が入り乱れる戦場に、突如一人の男が現れた。
巨大な翼をはためかせた男は、戦火を吹き飛ばし、敵をなぎ倒し、空を飛び回った。
まさしく五十年前の名も無き大妖精の様であった。
大妖精の予言は真実であったのだ。
弓を構えた敵兵も、炎を手にした者共も、男に対しては全くの無力であった。
しかし、男は過酷な戦場で傷つき倒れた。
誰しもがその生命を諦めたその時。
眩いばかりの光が男を包み、背中の翼を煌めかせ、男は立ち上がった。
更に森からは轟音とともに森の精が群れをなし、敵に襲いかかった。
人間と森の精がこれ程までに力を出し合い戦に勝利したのはこれが初めてであった。
男は戦で傷ついた兵を魔法で癒し、焼けた森を見事に復活させた。
男は森の精達の王として崇められた。
更に男はルーフ国の王と再び二〇〇年前の不戦と共存の契を交わした。
男は国民を厄災から、戦火から守り、ルーフ国に平穏をもたらした。
人間は森の精に感謝をこめて、二度と森に火を放たせないと誓った。
そして実った果実を森に供える人間があとを絶たなかった。
その姿は二〇〇年の時を経て再び実現した、人間と森の精が共存する世界だった。
英雄と崇められたその男ーディーク・ルノウは、ルーフ国に永遠のような平和と安穏を与え続けた。
人間は荒涼とした土地を耕し、道を作り、谷には橋をかけた。
妖精は木々に果実を実らせ、様々な災害から人々を守った。
やがて国は大きくなり、豊かになっていった。
妖精と人間が共存し、認めあう世界が訪れたように思えた。
五〇年前の大戦までは。
ルーフの隣国のナハルザームの王ダンカは、幾千もの兵を従えルーフを攻め立てた。
ナハルザームは驚異のスピードでその領土を広げていて、平和の中で暮らしていたルーフの民は絶好の獲物だったのだった。
国は戦火に飲み込まれ、何百何千もの罪のないルーフの民が死んでいった。
多くの妖精たちは袋詰めにされ、兵士によって売りさばかれた。
ルーフの民の半数が死に、妖精が森の中から殆ど消えてしまった。
ダンカがルーフの殆どを手中に収めたかに思えたその時だった。
まばゆいばかりの光を放ち、大きな翼を空に広げた一匹の妖精が現れた。
妖精はその翼を翻すだけで、何百人もの敵兵を吹き飛ばした。
踏み荒らされた大地に妖精が足をつけると一瞬でそこから草花が広がり、兵士の剣や槍は木の枝に変わった。
これに恐れ慄いたダンカは兵を引き、ナハルザームへ逃げ帰った。
その名も無き妖精は、人々から英雄として崇められ、感謝された。
しかし、戦から直ぐにその妖精は重い病を患い、ニ日後に亡くなった。
妖精は死ぬ間際、自らの立派な羽根を切り落とさせて言った。
「私が死んでも、この国が危険に晒される時があれば、この翼を背中に生やした戦士が現れ、民を救い出すだろう。その戦士は今はその使命を知らぬ。だがこの翼がその者を勝利と平和へ導くと誓おう。」
初めルーフの民は、妖精の言ったこの「戦士」とは誰なのか、盛んに議論し合った。
しかし、時が経つにつれて、平和がその疑問をかき消していき、その翼は王宮で厳重に管理されたまま、誰の目にも触れなくなった。
しかし五十年後、再びルーフ国はナハルザーム国との戦闘を開始せざるを得なかった。
長年ナハルザーム国との間に結界を張っていた森の妖精の一人、ヴルスラが後の夜の民の覇者デルアリによって斃されたからである。
ナハルザーム国のカルダン王は、デアハラム高原に進軍し、ルーフ国軍と対戦した。
戦況は困難を極め、再び森に炎が上がった。
ちょうどその時だった。
カルダン王率いるナハルザーム国軍と、ヴィックス王率いるルーフ国軍が入り乱れる戦場に、突如一人の男が現れた。
巨大な翼をはためかせた男は、戦火を吹き飛ばし、敵をなぎ倒し、空を飛び回った。
まさしく五十年前の名も無き大妖精の様であった。
大妖精の予言は真実であったのだ。
弓を構えた敵兵も、炎を手にした者共も、男に対しては全くの無力であった。
しかし、男は過酷な戦場で傷つき倒れた。
誰しもがその生命を諦めたその時。
眩いばかりの光が男を包み、背中の翼を煌めかせ、男は立ち上がった。
更に森からは轟音とともに森の精が群れをなし、敵に襲いかかった。
人間と森の精がこれ程までに力を出し合い戦に勝利したのはこれが初めてであった。
男は戦で傷ついた兵を魔法で癒し、焼けた森を見事に復活させた。
男は森の精達の王として崇められた。
更に男はルーフ国の王と再び二〇〇年前の不戦と共存の契を交わした。
男は国民を厄災から、戦火から守り、ルーフ国に平穏をもたらした。
人間は森の精に感謝をこめて、二度と森に火を放たせないと誓った。
そして実った果実を森に供える人間があとを絶たなかった。
その姿は二〇〇年の時を経て再び実現した、人間と森の精が共存する世界だった。
英雄と崇められたその男ーディーク・ルノウは、ルーフ国に永遠のような平和と安穏を与え続けた。
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