Red And Frower

斗弧呂天

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終焉

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家に帰ると、いつもお母さんが迎えてくれる。
玄関のドアを開けると、丁度お母さんの写真が僕に微笑みかけてくれる。
あの、優しい笑みで。
お母さんは、ずっと僕を見守ってくれていた。
お母さんがいなくなったのは悲しいことだけど、それでお母さんとの距離もずっと近くなったような気がする。
だから僕はここまで来れた。
ただ、倉庫でお母さんのウェディングドレスを見つけたとき、僕は罪を犯したんだ。
もう10年も前のことだと言って、お母さんはそのウェディングドレスを恥ずかしそうに隠した。
少し赤みを帯びた頬が綺麗だった。
お母さんがいなくなって、僕も大人になってから、倉庫の片付けをしていたら、また見つけたんだ。
お母さんのウェディングドレス。
お母さんは結婚式の写真を持っていない。
必要ないから撮らなかったとお母さんは言ったけど、あの頃の記憶を捨てたかったのだと僕は知っている。
でも、僕は知りたくなったんだ。
昔描いたあの絵のように、美しいお母さんがウェディングドレス姿で微笑むのを。
赤い花束を抱えて、晴れやかな顔になるのを。
でも、上手くいかなかった。
お母さんのように美しいものを持っている人を探して、その美を永遠にしても、それはお母さん自身じゃない。
無駄だったのかもしれない。
全てが。
じゃあ、無駄じゃない事をしようか。
のろまな警察もそろそろ動き始める頃だ。


お母さんの写真を1枚ずつ丁寧に剥がす度に、涙が流れた。
アルバムから写りのいいのを選んで少しずつ増えていったお母さんの写真。
その一つ一つにお母さんの笑顔がある。
美しいお母さん。永遠になってしまったお母さん。
最後の1枚になる頃には、涙も枯れていた。
そしてもう一つ。
衣装ケースの中に入っていたウェディングドレスを取り出す。
もう新品のような輝きはないけど、仕方が無い。
そうそう、忘れちゃいけない。
ポリタンクに入った液体を寝室に運び込み、ベッドの周りに撒いた。
そして、写真とドレスをベッドの上に広げてから周りに撒いたガソリンに火をつけた。
一瞬で炎が僕を囲んだ。
真っ赤な炎。
ベッドに寝転び、お母さんのウェディングドレスをしっかりと抱いた。
お母さんの体温。温かい。

「お母さん。もうすぐ行くから。」

神は愛なり
けがれはてし
われさえ愛したもう
神は愛なり……

お母さんの優しい歌声が炎の轟音の中で聞こえた気がした。
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