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赤い女
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女は、目の前の椅子にぎこちなく座った。
白い壁と少しの家具しかない殺風景な部屋の中を見回していると、小さなサイドテーブルの上に赤い包みが置いてあることに気付いた。
女は椅子から立ち上がり、その包みに手を掛けた。
中身は、純白のウェディングドレスだった。
女はぞっとしたが、ドレスと共に入っていたメッセージカードを開いた。
〝愛しの君へ
君に似合うと思わないかい?
この白いドレスに君の青い瞳が映えると思う
んだ。
着てみて欲しいな。〟
カードをサイドテーブルに置き、右を見ると大きな姿見が壁に掛けられていた。
そこには、恐怖と迷いにうちひしがれた女の姿が映っていた。
このウエディングドレスを着ると考えただけで恐ろしいが、自分をここまで連れてきた人物が、命令に背いたらどんな事をするのか分かったものではない。
死にたくない。その一心で、女は急いで服を脱ぎ捨てた。
ウエディングドレスは、まるで測ったかのように、女の体がすっぽりと入った。
しかし、その事はあまり考えないようにした。
考え出したら、恐怖が止めどなく溢れてきそうだったからだ。
姿見の前に立つと、内面の不安とは裏腹に見事なウエディングドレス姿の自分がいた。
まるで別の世界に居るような自分を見つめていると、突然口を塞がれ強引に現実に引き戻された。
鏡の中の自分は、白いシャツ姿の男に口を手で塞がれていた。
「嗚呼、やっぱり綺麗だ。ほら、君の瞳とこのドレスがよく似合っている。」
女の恐怖が入り交じった青い瞳が、一瞬で苦痛に歪んだ。
声にならない悲鳴を上げる女の顔を、まるで美しい絵画でも眺めるように男はうっとりとした目で見つめ続けた。
そして、女の脇腹に突き刺したサバイバルナイフを時計回りにゆっくりと回した。
肉を抉るようにする度に噴き出す鮮血で、男の手は濡れていった。
「本当に綺麗だ。君の瞳は。きっと赤いドレスにも、君の瞳は映えるだろうね。」
純白のウェディングドレスは、刺し口から鮮やかな赤に染まっていった。
その赤が、ドレスの裾まで届いた所で、女は気を失った。
まだ息があることを確かめ、男はナイフを引き抜き、一気に血が溢れてくるのも気にせず、女を肩に担いだ。
鼻歌交じりに部屋の奥のベッドルームのドアを開け、ベッドに女を丁寧に寝かせた。
そして、ベッドの横のローテーブルから小振りな折り畳みナイフを取り、女に向き直ると、小さく舌打ちをした。
横たわった女は、先程の痛みに悶える表情はなく、ただ魂の抜けた肉塊がそこにあるばかりだった。
「ナイフを抜かなければよかった。まあいい。怖がらなくてもいいよ。」
そう呼び掛け、男はそのナイフを女の表情をなくした顔に押し当てた。
「美しい瞳を持つ君は、その瞳以外必要ない。」
ベッドルームの窓からは、近くの教会で歌われている讃美歌が流れてきた。
男はその歌詞を口ずさみながら、ナイフを持つ手に力を入れた。
薄暗い部屋に、何かを剥ぎ取る音が讃美歌と共に静かに響いていた。
白い壁と少しの家具しかない殺風景な部屋の中を見回していると、小さなサイドテーブルの上に赤い包みが置いてあることに気付いた。
女は椅子から立ち上がり、その包みに手を掛けた。
中身は、純白のウェディングドレスだった。
女はぞっとしたが、ドレスと共に入っていたメッセージカードを開いた。
〝愛しの君へ
君に似合うと思わないかい?
この白いドレスに君の青い瞳が映えると思う
んだ。
着てみて欲しいな。〟
カードをサイドテーブルに置き、右を見ると大きな姿見が壁に掛けられていた。
そこには、恐怖と迷いにうちひしがれた女の姿が映っていた。
このウエディングドレスを着ると考えただけで恐ろしいが、自分をここまで連れてきた人物が、命令に背いたらどんな事をするのか分かったものではない。
死にたくない。その一心で、女は急いで服を脱ぎ捨てた。
ウエディングドレスは、まるで測ったかのように、女の体がすっぽりと入った。
しかし、その事はあまり考えないようにした。
考え出したら、恐怖が止めどなく溢れてきそうだったからだ。
姿見の前に立つと、内面の不安とは裏腹に見事なウエディングドレス姿の自分がいた。
まるで別の世界に居るような自分を見つめていると、突然口を塞がれ強引に現実に引き戻された。
鏡の中の自分は、白いシャツ姿の男に口を手で塞がれていた。
「嗚呼、やっぱり綺麗だ。ほら、君の瞳とこのドレスがよく似合っている。」
女の恐怖が入り交じった青い瞳が、一瞬で苦痛に歪んだ。
声にならない悲鳴を上げる女の顔を、まるで美しい絵画でも眺めるように男はうっとりとした目で見つめ続けた。
そして、女の脇腹に突き刺したサバイバルナイフを時計回りにゆっくりと回した。
肉を抉るようにする度に噴き出す鮮血で、男の手は濡れていった。
「本当に綺麗だ。君の瞳は。きっと赤いドレスにも、君の瞳は映えるだろうね。」
純白のウェディングドレスは、刺し口から鮮やかな赤に染まっていった。
その赤が、ドレスの裾まで届いた所で、女は気を失った。
まだ息があることを確かめ、男はナイフを引き抜き、一気に血が溢れてくるのも気にせず、女を肩に担いだ。
鼻歌交じりに部屋の奥のベッドルームのドアを開け、ベッドに女を丁寧に寝かせた。
そして、ベッドの横のローテーブルから小振りな折り畳みナイフを取り、女に向き直ると、小さく舌打ちをした。
横たわった女は、先程の痛みに悶える表情はなく、ただ魂の抜けた肉塊がそこにあるばかりだった。
「ナイフを抜かなければよかった。まあいい。怖がらなくてもいいよ。」
そう呼び掛け、男はそのナイフを女の表情をなくした顔に押し当てた。
「美しい瞳を持つ君は、その瞳以外必要ない。」
ベッドルームの窓からは、近くの教会で歌われている讃美歌が流れてきた。
男はその歌詞を口ずさみながら、ナイフを持つ手に力を入れた。
薄暗い部屋に、何かを剥ぎ取る音が讃美歌と共に静かに響いていた。
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