杉本君について

葉月凛

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          ◆

 翌日、夏樹は早めに会社に出勤した。
 早くに起きたというより、眠れなかったという方が正しい。

 昨夜はあのままソファーで休んだので、起きたら体の節々が痛かった。目をつぶると自己嫌悪が頭をよぎるせいで、あまり眠れていない。

 改めて考えると、北野の評価は、思い当たることが色々ある気がした。あまり人に逆らわず同調しやすい性格も、優柔不断に見えるのかもしれない。

 ただその中で、女性云々に関してだけは、身に覚えがなかった。……もしかしたら、この前のチームの飲み会で、記憶が曖昧な後半部分、派遣の女子社員に絡んだのかもしれない。申し訳ないことをした。

 セクハラで会社をクビになる近未来が頭に巡り出した明け方、もう寝るのを諦めた夏樹は熱めのシャワーを浴び、とりあえずすっきりしたのだった。

 まだ人もまばらなオフィスで、既に出勤していた阪木のデスクの側に行き、しとしおと頭を下げる。

「昨日は、すみませんでした」
「……おう。頭、冷えたか?」
「はい。すみません」

 阪木は椅子をぐるりと回し、夏樹に体を向けた。

「俺も、訳も聞かずに悪かった。それで、何があったのか聞いてもいいか?」
「……いえ、あの。自分が一方的に悪かっただけなので、その……すみません」

 阪木が、夏樹をじっと見る。

「それから、北野さんは、私用メールはしていないと思います」

 あれは業務メールだから、私用ではない。
 阪木は、小さくため息をついた。

「……そうか。ま、仲良くやってくれ」
「はい、ほんとにすみませんでした」

 北野の調査に言及することになるから、詳細は言いづらい。個人の瑣末な喧嘩として見逃してくれた阪木に、夏樹は再度頭を下げた。

 自席へ戻ると、阪木はもういつもの調子でパーティション越しに声をかけてきた。

「ああ、北野君な、今日は本社でいないから。次会ったら謝っとけよー」
「え、本社? そうなんですか……分かりました」

 北野が今日は来ないと聞いて、張っていた気が抜けてしまう。北野に会ったら一番に謝ろうと気負っていただけに、妙にがっかりする夏樹だった。

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