2 / 113
2
しおりを挟む
君島英司は、最高の上司だった。
薫が大学を出て就職した広告代理店は、当時上場したばかりの勢いのある会社だった。社員同士の競争意識が高い分やりがいがあり、負けず嫌いな薫には性に合う職場だった。
入社して配属された先にいた君島英司は、3つ年上の頼れる先輩だった。後輩社員の面倒見も良く仕事もそつなくこなす彼は、上司からの信頼はもちろん部下からも慕われる存在だった。
「……ベーコン、美味しいね、さつまいもと、合うと思う。チーズ、も」
「真面目かよ。ほら、お茶」
喉をひくつかせながら感想を言う薫に、苦笑したマスターがお茶を出した。
「……全く、英司は何やってんだか」
1年かけて、口説き落とされた。
薫はノーマルだったのだ。
『次のプレゼンが通ったら、ご褒美に付き合って』
無邪気に笑う英司に薫がとうとう頷くと、傍目にも可笑しいくらいの張り切りようだった。
英司がプロジェクトリーダーに就任するのと同時に、交際がスタートした。その頃には、もう好きになっていた。
「マスター、知ってたんだよね」
「あ……いや」
「嘘だ」
この店は、英司に連れて来られた。英司の馴染みの、いわゆる、ゲイの人たちが集まる店だ。薫は他にこういう店を知らないから、今日もここに来た。
英司に会う心配はない。
何故なら、彼は──
「新婚旅行が今日からとは、聞いてなかったよ」
君島英司は、本当に最低な男だ。
1週間前、いつものように食事を共にし、薫の部屋で抱き合った。いつにも増して激しく薫の中を貫き、その奥に熱い精を吐き出すと、何でもないことのように言った。
『ああ、来月結婚するんだ。先に新婚旅行に行くから、土産買って来てやるよ』
何を言っているのか分からなかった。
呆然とする薫を、英司はまた抱いた。
『心配するな、何も変わらないよ。薫とは、これまで通りだ』
何を言っているのか、分からなかった。
薫が大学を出て就職した広告代理店は、当時上場したばかりの勢いのある会社だった。社員同士の競争意識が高い分やりがいがあり、負けず嫌いな薫には性に合う職場だった。
入社して配属された先にいた君島英司は、3つ年上の頼れる先輩だった。後輩社員の面倒見も良く仕事もそつなくこなす彼は、上司からの信頼はもちろん部下からも慕われる存在だった。
「……ベーコン、美味しいね、さつまいもと、合うと思う。チーズ、も」
「真面目かよ。ほら、お茶」
喉をひくつかせながら感想を言う薫に、苦笑したマスターがお茶を出した。
「……全く、英司は何やってんだか」
1年かけて、口説き落とされた。
薫はノーマルだったのだ。
『次のプレゼンが通ったら、ご褒美に付き合って』
無邪気に笑う英司に薫がとうとう頷くと、傍目にも可笑しいくらいの張り切りようだった。
英司がプロジェクトリーダーに就任するのと同時に、交際がスタートした。その頃には、もう好きになっていた。
「マスター、知ってたんだよね」
「あ……いや」
「嘘だ」
この店は、英司に連れて来られた。英司の馴染みの、いわゆる、ゲイの人たちが集まる店だ。薫は他にこういう店を知らないから、今日もここに来た。
英司に会う心配はない。
何故なら、彼は──
「新婚旅行が今日からとは、聞いてなかったよ」
君島英司は、本当に最低な男だ。
1週間前、いつものように食事を共にし、薫の部屋で抱き合った。いつにも増して激しく薫の中を貫き、その奥に熱い精を吐き出すと、何でもないことのように言った。
『ああ、来月結婚するんだ。先に新婚旅行に行くから、土産買って来てやるよ』
何を言っているのか分からなかった。
呆然とする薫を、英司はまた抱いた。
『心配するな、何も変わらないよ。薫とは、これまで通りだ』
何を言っているのか、分からなかった。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
僕と教授の秘密の遊び (終)
325号室の住人
BL
10年前、魔法学園の卒業式でやらかした元第二王子は、父親の魔法で二度と女遊びができない身体にされてしまった。
学生達が校内にいる時間帯には加齢魔法で老人姿の教授に、終業時間から翌朝の始業時間までは本来の容姿で居られるけれど陰茎は短く子種は出せない。
そんな教授の元に通うのは、教授がそんな魔法を掛けられる原因となった《過去のやらかし》である…
婚約破棄→王位継承権剥奪→新しい婚約発表と破局→王立学園(共学)に勤めて生徒の保護者である未亡人と致したのがバレて子種の出せない体にされる→美人局に引っかかって破産→加齢魔法で生徒を相手にしている時間帯のみ老人になり、貴族向けの魔法学院(全寮制男子校)に教授として勤める←今ここ を、全て見てきたと豪語する男爵子息。
卒業後も彼は自分が仕える伯爵家子息に付き添っては教授の元を訪れていた。
そんな彼と教授とのとある午後の話。
【完結】あなたの正しい時間になりたい〜上司に囚われた俺が本当の時間を見つけるまで〜
栄多
BL
都内の広告代理店勤務のデザイナー・澁澤澪緒(しぶさみお)は、上司との不倫から抜け出せないでいた。
離婚はできない不倫相手の上司からはせめてもの償いとして「お前もボーイフレンドを作れ」と言われる始末。
そんな傷心の澪緒の職場にある日、営業として柏木理緋都(かしわぎりひと)が入社してくる。
イケメンだが年上の後輩のである理緋都の対応に手こずる澪緒だが、仕事上のバディとして少しずつ距離を縮めていく。
順調だと思っていたがある日突然、理緋都に上司との不倫を見抜かれる。
絶望して会社を辞めようとする澪緒だが理緋都に引き止められた上、なぜか澪緒のボーイフレンドとして立候補する理緋都。
そんな社会人2人の、お仕事ラブストーリーです。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
【完結】禁断の忠誠
海野雫
BL
王太子暗殺を阻止したのは、ひとりの宦官だった――。
蒼嶺国――龍の血を継ぐ王家が治めるこの国は、今まさに権力の渦中にあった。
病に伏す国王、その隙を狙う宰相派の野心。玉座をめぐる見えぬ刃は、王太子・景耀の命を狙っていた。
そんな宮廷に、一人の宦官・凌雪が送り込まれる。
幼い頃に売られ、冷たい石造りの宮殿で静かに生きてきた彼は、ひっそりとその才覚を磨き続けてきた。
ある夜、王太子を狙った毒杯の罠をいち早く見破り、自ら命を賭してそれを阻止する。
その行動をきっかけに、二人の運命の歯車が大きく動き始める――。
宰相派の陰謀、王家に渦巻く疑念と忠誠、そして宮廷の奥深くに潜む暗殺の影。
互いを信じきれないまま始まった二人の主従関係は、やがて禁じられた想いと忠誠のはざまで揺れ動いていく。
己を捨てて殿下を守ろうとする凌雪と、玉座を背負う者として冷徹であろうとする景耀。
宮廷を覆う陰謀の嵐の中で、二人が交わした契約は――果たして主従のものか、それとも……。
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる