コントレイルとちぎれ雲

葉月凛

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 環の主催する『合同オータムパーティー』は、6つのダンス教室合同の発表会なのだと今更ながら理解する。

「こっちの2曲目が、秋田さん。で、こっちの3曲目が、早川さん。この曲、頭に空白あるから飛ばしてね」
「これ、俺のデモ。チェイサーは無しでいいよ」
「この曲は音が小さいから、大きめで」
「この人とこの人は、同じ曲でいいからね」
「これは、曲先行。司会者の紹介後、まず曲かけて」

 一気に持ってこないで欲しい。
 そして、何気に注文が多い。
 マスキングテープをちぎりながら、混同しないように気を付けて貼っていく。

「あ、このワルツ、ちょっと速度落として」
「えっ」

 そんなことができるのかと島崎を見ると、はいはいと受け取ってノートパソコンを立ち上げている。

「これ、フリーダンスのCDね。こっちが1回目で、こっちが2回目」
「俺のデモ、ここに置いとくよー、チェイサー有りで!」
「あ、ちょっ」

 俺さんは誰さんだ。
 島崎がパソコンを操作しながら、ちらりとこちらを見た。

「今の人は、堤先生だよ。堤ダンス教室の」
「……ありがとうございます」

 ──これは。簡単に引き受けてしまったものの、慣れていないと大変なんじゃないだろうか。

「大丈夫、さばけてるよ。木下さんなんて、たまにキレてたからなぁ」

 ヘッドフォンで曲を確認しつつ、島崎が笑った。慣れていても、大変らしい。

 続けて始まったリハは、更に大変だった。

 リハーサルというからプログラム通りに進めるのかと思いきや、準備ができた人からランダムに始めるらしい。

 直前に先生が来て、『次はこの人』と指示を出す。薫がその音源CDを探して曲番など確認して島崎に渡すと、やっぱり先に別の人、などころころ変わるのだ。

 司会者も、その都度音響ブースに次は誰かと聞きに来る。

 そして、1人1人最終確認をするのだが、やっぱり注文が多い。1年に1回の大事な発表会だから熱が入るのは当然なのだが。

「フロアのここで、このポーズを取ったら曲をかけて」
「1番が終わってお辞儀をしたら、あとはフェードアウトで」
「音! もっと大きくして」

 島崎は、はいはいと聞いて曲をかける。機材の前にいる島崎に代わってメモを取るのは薫の役目だ。

 一度、確認に手間取って曲番を間違えて島崎に渡し違う曲が流れてしまい、環に『本番でやったら噛むわよ!』と怒られた。

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