コントレイルとちぎれ雲

葉月凛

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「上から順に、それぞれこのフェーダーね。今上がってるこれが、真ん中のデッキ。次の曲はもう下に入ってるから、このフェーダー上げて、再生。再生は……分かるよね?」
「……はい」
「フリーダンスのCDは一番上に入ってるから、司会者のコメントで、再生」
「はい」

 テーブルの上のミキサーを差しながら簡単な説明を受けて、薫は頷いた。

「音質とか気にしなくていいから。この辺のツマミは触らないでね。何かあったら電話して」

 メモにさっと電話番号を書いて、島崎は足早に行ってしまった。

 一気に緊張が走る。
 島崎が座っていた機材前の席に移り、今再生しているデッキのカウントを見た。曲が終わる。

 司会者のコメントが入り、ダンサーが駆け付けた友人から花束を受け取った。会場が拍手に包まれる。

 登場口に次のダンサーが来ていることを確認した司会者が、薫を振り返って頷いた。

 いきますよ、の合図だ。

 心臓がばくばくする。
 薫は、下のデッキのフェーダーを島崎に言われた位置まで押し上げた。デッキの、再生ボタンの位置を確認する。

「それでは、第1部ラストの組になります──」

 司会者の紹介コメントで、白いドレスを纏った女性がパートナーの男性に手を取られて、フロア中央に歩み出た。男性は、堤先生だ。

「──それではお願いします。ワルツです」

 司会者のコメントに、女性が右肩を斜めに下げてポーズを取る。
 ざわついていた会場から一瞬、しん、と音が消えた。

 フロア上の2人が静止したところで、薫はデッキに伸ばしていた指で、そっと曲をスタートさせる。会場に、薫も聞き馴染みのあるワルツのイントロが流れ出した。

 自分が再生ボタンを押した曲が流れただけで、こんなにほっとするとは思わなかった。

 小さく息を吐くと、思ったより控えめな音量に、薫は少しフェーダーを上げた。ワルツは、曲が静かだ。盛り上がりと共に大きくなる音量に気を付けながら、フロアを注視する。

 ……大丈夫、流れるように踊っている。思わず、がんばって、と心の中で応援しているうちにダンスは曲のサビを迎え、堤先生にリードされながら無事に踊り終えた。

 拍手を受けながら満面の笑みで、駆け付けた友人から花束を受け取っているダンサーを見て、薫もほっと息をついていると、すぐ後ろに美奈子が立っていることに気が付いた。

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