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◇
薫の最寄りから数駅先の、複数の路線が交わる大きめな駅で待ち合わせた櫻井は、白いシャツに紺の薄手のジャケットを羽織っただけのカジュアルな格好をしていた。
駅から少し離れた繁華街の一角は中華店も多く、そのうちの1つに案内される。入った店は中国人夫婦が経営する小さな店で、家庭的な感じがした。
「アルバイト、決めてくれて良かったよ。木下さんの入院、ちょっと長引きそうだったから」
「そうなんだ。木下さん、大丈夫なの?」
「うん。妊娠高血圧症候群って、分かる? 少し前までは妊娠中毒症って言ってね、血流がちょっと悪くなってるんだ。血がちゃんと回らないから、放っておくとあちこちに支障が出る。もちろん、赤ちゃんにもね。木下さんはこのタイミングで双子も判明したから、しばらくは入院して経過観察が必要だね」
「……ほんとに医師免許持ってるんだね」
「うん?」
「医療弁護士だって……」
昨日美奈子に聞いてから、実は櫻井のことをちょっと見直していた。
「医療ミスとかの裁判で、病院と争ったりするんだろ? ああいうのって、なかなか勝てないって聞いたことがある」
医療の知識がないと病院側に上手く言いくるめられてしまうだろうし、対抗する術もない。そんな弱者の助けになってくれる存在は、当事者にすればどれだけありがたいだろう。
それに、裁判は勝たないとお金にならないのではなかったか?
「それでも困ってる人の味方になるって、俺はよく分からないけど、その……すごいと思う」
櫻井は目を細めてビールをごくりと飲み、口元をゆるく歪めた。
「うーん。ちょっと、誤解があるね」
「え?」
「俺は、病院側の医療弁護士だよ?」
「えっ」
「この前、病院がクライアントって話、したと思うんだけどなぁ」
「………」
──そうだった。遊び人でクズのあの男……啓太、だったか。クライアントの大病院の、跡取り息子だと言っていた。
美奈子に医療弁護士と聞いてつい勝手なイメージが浮かんでしまったが、病院側ということは、弱者である被害者を更に追い込む側……なのか。
「そんな顔しないでくれる?」
櫻井が、くくっと笑った。
薫の最寄りから数駅先の、複数の路線が交わる大きめな駅で待ち合わせた櫻井は、白いシャツに紺の薄手のジャケットを羽織っただけのカジュアルな格好をしていた。
駅から少し離れた繁華街の一角は中華店も多く、そのうちの1つに案内される。入った店は中国人夫婦が経営する小さな店で、家庭的な感じがした。
「アルバイト、決めてくれて良かったよ。木下さんの入院、ちょっと長引きそうだったから」
「そうなんだ。木下さん、大丈夫なの?」
「うん。妊娠高血圧症候群って、分かる? 少し前までは妊娠中毒症って言ってね、血流がちょっと悪くなってるんだ。血がちゃんと回らないから、放っておくとあちこちに支障が出る。もちろん、赤ちゃんにもね。木下さんはこのタイミングで双子も判明したから、しばらくは入院して経過観察が必要だね」
「……ほんとに医師免許持ってるんだね」
「うん?」
「医療弁護士だって……」
昨日美奈子に聞いてから、実は櫻井のことをちょっと見直していた。
「医療ミスとかの裁判で、病院と争ったりするんだろ? ああいうのって、なかなか勝てないって聞いたことがある」
医療の知識がないと病院側に上手く言いくるめられてしまうだろうし、対抗する術もない。そんな弱者の助けになってくれる存在は、当事者にすればどれだけありがたいだろう。
それに、裁判は勝たないとお金にならないのではなかったか?
「それでも困ってる人の味方になるって、俺はよく分からないけど、その……すごいと思う」
櫻井は目を細めてビールをごくりと飲み、口元をゆるく歪めた。
「うーん。ちょっと、誤解があるね」
「え?」
「俺は、病院側の医療弁護士だよ?」
「えっ」
「この前、病院がクライアントって話、したと思うんだけどなぁ」
「………」
──そうだった。遊び人でクズのあの男……啓太、だったか。クライアントの大病院の、跡取り息子だと言っていた。
美奈子に医療弁護士と聞いてつい勝手なイメージが浮かんでしまったが、病院側ということは、弱者である被害者を更に追い込む側……なのか。
「そんな顔しないでくれる?」
櫻井が、くくっと笑った。
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