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裁判は長期にわたった。
その間、医師は何度も裁判所に足を運び、求められるたびに説明し、その都度両親から向けられる怒りと憎しみに耐え続けた。
そして、ようやく医療過誤は認められないという判決が出る頃には、医師は大学病院を去っていた。
櫻井の、いつかの言葉が頭をよぎる。
──医者だって神様じゃないんだから。最善を尽くして助からなかった患者を前にして何も感じない医者がいると思うかい? それなのに、聞きかじりの知識でありもしないミスをねつ造して攻撃されて、傷付かないと思う? 誰かが間に入って、ちゃんと説明して、分かってもらって。残された人がしっかり前を向いて歩けるように、背中を押してあげないといけない時もあるんだよ──
「さっき診てもらった、あのお医者さんだよ」
「あ……」
薫の話を優しく聞いてくれた、医師の顔を思い出した。
「医師側の立場から話す俺は、あいつの両親に嫌われちゃってね。お陰で、いまだに墓参りも時間をずらして行かないといけないんだよ。あの日も、帰って来たら夕方になった」
あの日の薄暗い事務所は、電気すらついていなかった。
「美奈子は今でもあいつを想って泣く。あいつも本望だろう」
あの日の美奈子は……泣いていたのだ。
「別居は美奈子から言い出したんだ。翼の留学を機にね」
「……翼君は、知ってるの?」
「うん。別居するなら、話すべきだからね」
自分が櫻井の親友の子供だったという話を聞き終えた翼は、神妙な顔をして、留学をやめると言い出したそうだ。
「俺に留学費用を出してもらう理由がないからって言うんだよ。そういう律儀なところは、あいつそっくりだ」
櫻井が、目を細めてくくっと笑う。
「だからね、出世払いにしてあげたら渋々納得してた。馬鹿だねぇ、大人ぶって気を使いたい年頃なんだよ」
両親の別居にも反対しなかった翼は、両親が不仲ではないことも知っているのだろう。いつか、立派なバイオリニストになって演奏会に2人を招待する、と真面目な顔をして言ったそうだ。
中等部からイギリスに留学している翼は今年2年目で、がんばっている。
その間、医師は何度も裁判所に足を運び、求められるたびに説明し、その都度両親から向けられる怒りと憎しみに耐え続けた。
そして、ようやく医療過誤は認められないという判決が出る頃には、医師は大学病院を去っていた。
櫻井の、いつかの言葉が頭をよぎる。
──医者だって神様じゃないんだから。最善を尽くして助からなかった患者を前にして何も感じない医者がいると思うかい? それなのに、聞きかじりの知識でありもしないミスをねつ造して攻撃されて、傷付かないと思う? 誰かが間に入って、ちゃんと説明して、分かってもらって。残された人がしっかり前を向いて歩けるように、背中を押してあげないといけない時もあるんだよ──
「さっき診てもらった、あのお医者さんだよ」
「あ……」
薫の話を優しく聞いてくれた、医師の顔を思い出した。
「医師側の立場から話す俺は、あいつの両親に嫌われちゃってね。お陰で、いまだに墓参りも時間をずらして行かないといけないんだよ。あの日も、帰って来たら夕方になった」
あの日の薄暗い事務所は、電気すらついていなかった。
「美奈子は今でもあいつを想って泣く。あいつも本望だろう」
あの日の美奈子は……泣いていたのだ。
「別居は美奈子から言い出したんだ。翼の留学を機にね」
「……翼君は、知ってるの?」
「うん。別居するなら、話すべきだからね」
自分が櫻井の親友の子供だったという話を聞き終えた翼は、神妙な顔をして、留学をやめると言い出したそうだ。
「俺に留学費用を出してもらう理由がないからって言うんだよ。そういう律儀なところは、あいつそっくりだ」
櫻井が、目を細めてくくっと笑う。
「だからね、出世払いにしてあげたら渋々納得してた。馬鹿だねぇ、大人ぶって気を使いたい年頃なんだよ」
両親の別居にも反対しなかった翼は、両親が不仲ではないことも知っているのだろう。いつか、立派なバイオリニストになって演奏会に2人を招待する、と真面目な顔をして言ったそうだ。
中等部からイギリスに留学している翼は今年2年目で、がんばっている。
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