ブライダル・ラプソディー

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「以上をもちまして、模擬披露宴は終了とさせていただきます。皆様、ありがとうございました──」

　司会者のコメントに来訪客から自然と拍手が起こり、モデル役の新郎新婦は退場して行った。程なくして、来訪客もざわざわと席を立つ。

「何か、感動しちゃったぁ」

　そう話しながら出口に向かうのは、模擬挙式の時に涙ぐんでいた女性だ。連れの男性が、くしゃりと彼女の頭を撫でる。

「じゃあ相川、俺行くから。悪いけどあとは頼む」

　大半の来訪客が出たことを確認すると、本城は慌ただしく荷物をまとめた。

「あとこれ、今日の曲目リストと別件の見積書、成瀬さんに渡しておいてくれ」

　書類の入った茶封筒を鞄から取り出し、奈津に手渡す。

「あ、見積もりだから直接手渡してくれな。誰かに預けんなよ」
「分かりました」
「飲みは程々にしとけ、お前病み上がりなんだから。じゃあお先、成瀬さんによろしく言っといてくれ」
「はい、お疲れ様です。今日はありがとうございました」

　ばたばたと帰って行く本城を見送った奈津は、のんびりと音響台の片付けに取り掛かった。今日キャプテンを務めた里崎は担当客との打ち合わせがあるらしくいつもは行う反省会もなくなったし、打ち上げにはまだかなりの時間がある。

　モデル役の新郎新婦は、本番さながらにロビーで来訪客たちにドラジェを配っていた。

　ドラジェとは、アーモンドに淡い色とりどりの砂糖コーティングを施したもので、ヨーロッパでは昔からお祝い事によく配られるお菓子だ。数個ずつが可愛らしくラッピングされており、披露宴がお開きになったあとに、こうしてロビーで新郎新婦から参列者へ手渡されることが多い。幸せのお裾分けだ。
　また、披露宴中にキャンドルサービスの代わりにドラジェを配って回るような演出もあるとも本城に聞いている。

　ドラジェの代わりにクッキーやチョコレート、面白いところでは宝くじやイラストの入ったトイレットペーパー１巻を、最後にプチギフトとして配っているのを奈津は見たことがあった。皆、オリジナリティーに溢れていて感心する。

（披露宴は人生の一大イベントだもんな）

　前に成瀬に言われた、『一生に一度の大切な記念日』という言葉を思い出しつつ、奈津は今日の資料を片付けた。