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成瀬の右手が、頰を滑る。
くすくす笑いは、いつしか穏やかな微笑みに変化していった。
レースのカーテン越しに入る柔らかな夕日が、成瀬のライトブラウンの髪をいつもより明るく見せる。キラキラと輪郭を金色に縁取り、きめ細かな白い肌が透けるようだった。優しそうに細めた榛色の瞳が淡く揺れて見える。
男の人に使う形容詞じゃないけれど、本当に何てきれいな人なんだろう、と奈津は思った。胸のあたりが、じわじわと熱くなる。
(僕は、この人が、好きだ──)
自然と、そう思ってしまった。
この人に触れられたいし、触れてみたい──
「奈津」
成瀬の声は、もう甘さを含んでいた。
「顔色が戻って良かった。今日は無理に来させたかもしれないな……でも、今日会わないと、お前がもうここに来ないかもしれないと思ったんだよ」
「そんなこと……」
優しく頰を撫でる指先は、少し冷たかった。魔法にかけられたように、奈津も自然と手を伸ばそうとした、その時──
奈津の頬に触れた、もう片方の手──成瀬の左手の中にある、固く冷たいものが、ヒヤリと肌に当たった。……指輪だ。
その瞬間、現実を突きつけられるように、一瞬にして奈津の心にも、ヒヤリと冷たいものが走った。
奈津は目の前の手を振り払い、後退さった。急に顔色を変えた奈津を見て、成瀬が訝る。
「何? どうかしたか?」
奈津はもう、成瀬の顔が見られなかった。
「……こういうことは、やめてもらえますか」
奈津は下を向きながら、声を絞り出した。
「……何で」
成瀬の声色が急に低くなり、びくりとする。奈津は、ぎゅっと手を握りしめた。
「……迷惑です」
下を向きながら、答える。
「迷惑? この前の時も、俺は拒まれたとは思っていないが」
「っ!!」
奈津の顔に、カッと血が上った。
「よく、こんなことができますねっ、僕は……僕は、嫌だ!」
「おい、奈津!」
奈津はくるりと背を向けるともつれるように靴を履き、勢いよく部屋を飛び出した。一気にバックヤードを走り抜け、通用口から外へ出る。途中、すれ違ったスタッフが、不思議そうに奈津を見た。
成瀬は、追って来なかった。
くすくす笑いは、いつしか穏やかな微笑みに変化していった。
レースのカーテン越しに入る柔らかな夕日が、成瀬のライトブラウンの髪をいつもより明るく見せる。キラキラと輪郭を金色に縁取り、きめ細かな白い肌が透けるようだった。優しそうに細めた榛色の瞳が淡く揺れて見える。
男の人に使う形容詞じゃないけれど、本当に何てきれいな人なんだろう、と奈津は思った。胸のあたりが、じわじわと熱くなる。
(僕は、この人が、好きだ──)
自然と、そう思ってしまった。
この人に触れられたいし、触れてみたい──
「奈津」
成瀬の声は、もう甘さを含んでいた。
「顔色が戻って良かった。今日は無理に来させたかもしれないな……でも、今日会わないと、お前がもうここに来ないかもしれないと思ったんだよ」
「そんなこと……」
優しく頰を撫でる指先は、少し冷たかった。魔法にかけられたように、奈津も自然と手を伸ばそうとした、その時──
奈津の頬に触れた、もう片方の手──成瀬の左手の中にある、固く冷たいものが、ヒヤリと肌に当たった。……指輪だ。
その瞬間、現実を突きつけられるように、一瞬にして奈津の心にも、ヒヤリと冷たいものが走った。
奈津は目の前の手を振り払い、後退さった。急に顔色を変えた奈津を見て、成瀬が訝る。
「何? どうかしたか?」
奈津はもう、成瀬の顔が見られなかった。
「……こういうことは、やめてもらえますか」
奈津は下を向きながら、声を絞り出した。
「……何で」
成瀬の声色が急に低くなり、びくりとする。奈津は、ぎゅっと手を握りしめた。
「……迷惑です」
下を向きながら、答える。
「迷惑? この前の時も、俺は拒まれたとは思っていないが」
「っ!!」
奈津の顔に、カッと血が上った。
「よく、こんなことができますねっ、僕は……僕は、嫌だ!」
「おい、奈津!」
奈津はくるりと背を向けるともつれるように靴を履き、勢いよく部屋を飛び出した。一気にバックヤードを走り抜け、通用口から外へ出る。途中、すれ違ったスタッフが、不思議そうに奈津を見た。
成瀬は、追って来なかった。
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