ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 奈津は、メルマリーに来始めた頃、大失敗したことを思い出した。自分の不注意で、多大な迷惑を掛けてしまったのだ。

 その日の披露宴は無事に済み、本城と2人で帰途についていた。そして駅まで来た頃に、本城のスマートフォンが振動した。新郎新婦持ち込み音源のCDアルバムが1枚、紛失したという成瀬からの連絡だった。

 すぐに会場に取って返し、本城と一緒に心当たりの場所を探したが、どこにもなかった。

 そのCDアルバムは、あまりメジャーではないインディーズのアーティストで、直筆のサインが入っている思い出の品だった。新婦は泣き出し、新郎はどういうことかと怒り、騒ぎはだんだん大きくなった。

 持ち込みの音源を最後にまとめたのは、奈津だった。

『なくなる筈はないんだから、どこへやったか落ち着いて思い出せ』

 本城も次第に焦りだした。
 成瀬は、誰かの引き出物に紛れていないか、音響台に近いテーブルに着いていた親族1人ずつに頭を下げて、引き出物の袋を確認して回った。

 奈津は、嫌な汗をかきながら必死で考え……まさかと思い、自分の鞄の中を探ってみると、今日の資料の間に挟まれて、そのCDアルバムが出てきた。

『うわ……』

 あの時の、冷水を浴びたような感覚は忘れられない。

 新婦は怒るよりも出てきたことに喜んでしまい、それを見た新郎は、それ以上何も言わなかった。

 そのあと、成瀬にこっぴどく叱られたのは言うまでもない。自分の隣で共に頭を下げる本城にも、申し訳ない気持ちで一杯だった。
 もうここへは来られないかもしれないと覚悟したが、最終的には、

『もういい。次はないと思え』

 と、あっさり解放された。

 その時の新郎新婦からは、後日改めて抗議の手紙が届いた。せっかくの楽しい気分を最後の最後で台無しにされた、出てきたからいいようなものの一体どういう管理をしているのか、というような内容だった。当然だと思う。

 成瀬は自宅まで謝罪に行ったと、あとから聞いた。申し訳なさすぎて何度も謝る奈津に、その時も、

『ああ、いい。謝るのは俺の仕事だからな』

 と言って、それ以上の咎めはなかった。木嶋の言うように、最終的には庇ってくれていたように思う。

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