ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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          ◇

 披露宴会場には、まだちらほらと来訪客が残っていたが、幸い成瀬には会わずに済んだ。今日はもう帰ってしまいたかったがそうもいかないので、少し時間は早いが、打ち上げ会場へ向かうことにした。里崎が、成瀬は打ち上げに来ないと言っていたし、本城にも頼まれている。

 打ち上げ会場は、仕事が終わった人から集まることになっていた。メルマリーがよく使っている居酒屋で、融通をきかせてくれるらしい。

 自分が一番乗りだろうと思っていたが、奥まったところにある仕切られたスペースには既に数人のスタッフが席に着き、グラスを傾けていた。

「あれっ、ええと……相川くん、だよね? こっち、こっち」

 ビデオカメラマンの男性が、手を上げて気さくに声を掛ける。知った顔に、奈津は安心した。

「お疲れ様です。えっと……木嶋、さん?」

 随分前から一緒に仕事をしているが、お互いに名乗り合うことがなかった。誰かの呼び掛けを聞いているうちに覚えたりするのが大半で、思えばそういう人が結構いる。たくさんの人が出入りしているので仕方がないのだが、確かにこういった飲み会も必要かもしれない。

「ああ、自己紹介してなかったね。木嶋だ。ビールでいい?」
「はい、ありがとうございます。あ、相川です」

 今更ではあるが改めて名乗り合い、木嶋に注いでもらったビールでカチンとグラスを合わせる。

「早かったね。ああそうか、今日はキャプテン、里崎さんだったね」
「はい、反省会もなかったので」

 ビデオカメラマンは編集作業があるため、普段から反省会には参加していない。

「成瀬さん、厳しいだろ。君、先週も残されてたなぁ。絞られたかい?」
「はは。ええ、まぁ……」

 奈津は、苦笑いで言葉を濁した。

「あれでも、かなり丸くなったんだよ。俺はあの人がホテルにいた頃から知ってるけど、もっときつかったんだから」
「そうなんですか」

 奈津は、木嶋のグラスにビールを注ぎ足した。

「ああ。容赦がなかったね。すぐにキレるもんだから、皆、怖がってなぁ」

 木嶋が、美味しそうにビールを飲む。自分と知り合う前の成瀬に、奈津は興味が湧いた。

「今も、容赦ないですよ」
「ははっ、そうだね。でも、どんなに厳しいことを言っても最終的にはスタッフを庇ってたんだよ。どんなに酷いミスをしても、誰かを辞めさせるようなことはしなかったしね」

 木嶋はそう言って、優しそうに目を細めた。

「上にあげる報告にね、こういうことがあってこういう対処をしたって出しても、ミスした個人の名前は出さないんだ。メルローズは厳しいからね、ミスしたスタッフは切られることもあったんだけど、成瀬さんは違ったな。でもその場ではきつすぎること言うもんだから、結局自分から辞めちゃう人が多いんだけどね」

 そういえば、自分が入る前に人が続かなかったのも、皆自分から辞めたと本城が言っていた。

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