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成瀬は奈津の上に体を起こして跨ったまま、じっと見下ろしていた。切れ長の目が、更に細く険しくなる。
怒りを含んだような表情は、やがて苦しそうに歪んだ。
「……お前、俺のこと好きだろ。それでも、男同士はそんなに嫌か。そんなに、自分が許せないか」
「……へ?」
思い掛けない成瀬の言葉に、間抜けな声が出てしまった。自分が怒っているのは、そういうことではない。いや、それはそれで重要なのだが、今は違う。
というか、何故今そんなことを……話をすり替えて、ごまかすつもりなのか。そういうことなら、許せない。
──もっと早く、はっきりと口にするべきだった。はっきりと口にしてしまうことが、分かり切った現実を思い知ることが、自分はこれまで怖かったのだ。……でも。
奈津は、思い切って口を開いた。
「今日は、奥さんはいないんですか?」
「何を言っている?」
成瀬の眉間に皺が寄る。
しかし、奈津は怯まなかった。
「かっ、仮にもブライダルの仕事をしてる人が、浮気なんてしていいと、本気で思ってるんですかっ」
「は? 何の話だ」
奈津は、肘をついて体を半分起こして叫んだ。
「僕はっ、結婚してる人と、こんなことできないっ!」
成瀬は、大きく目を見開いた。
「俺は……誰とも、結婚していないが」
「だからっ! えっ」
奈津は、吸い込んだ息を、そのまま飲み込んだ。何を言われたのか一瞬分からず、ゆっくりと瞬きをする。
え? 結婚してないって、言ったのか?
え、そんな訳はない。左手の薬指に指輪をしていた筈だ。……今はしていないけど。
え?
「でも、指輪が……」
「指輪? 指輪って、何」
「いつも左手の薬指に……結婚指輪が……」
「ああ! あれか」
成瀬は奈津の上から体をどけると、ベッドの上に座り直した。つられて起き上がった奈津も、向かい合って座る。
「あれは、会社の備品だ」
「び……ひん……」
奈津は、思考が追いつかないまま、固まった。
成瀬は奈津を真っ直ぐに見ると、事実と思しきことを話した。
「ああ。あれは会社の備品だ。独身だとな、時々ややこしいことになったりするんだよ。嫉妬深い新郎とか……面倒くさいから、職場ではいつもつけてる。ていうか、里崎も独身だけどつけてるぞ? 知らなかったのか」
「………」
奈津は里崎の手を意識したことはなかった。今日も、目の前でバインダーをめくる手元を見たような気がするが。
怒りを含んだような表情は、やがて苦しそうに歪んだ。
「……お前、俺のこと好きだろ。それでも、男同士はそんなに嫌か。そんなに、自分が許せないか」
「……へ?」
思い掛けない成瀬の言葉に、間抜けな声が出てしまった。自分が怒っているのは、そういうことではない。いや、それはそれで重要なのだが、今は違う。
というか、何故今そんなことを……話をすり替えて、ごまかすつもりなのか。そういうことなら、許せない。
──もっと早く、はっきりと口にするべきだった。はっきりと口にしてしまうことが、分かり切った現実を思い知ることが、自分はこれまで怖かったのだ。……でも。
奈津は、思い切って口を開いた。
「今日は、奥さんはいないんですか?」
「何を言っている?」
成瀬の眉間に皺が寄る。
しかし、奈津は怯まなかった。
「かっ、仮にもブライダルの仕事をしてる人が、浮気なんてしていいと、本気で思ってるんですかっ」
「は? 何の話だ」
奈津は、肘をついて体を半分起こして叫んだ。
「僕はっ、結婚してる人と、こんなことできないっ!」
成瀬は、大きく目を見開いた。
「俺は……誰とも、結婚していないが」
「だからっ! えっ」
奈津は、吸い込んだ息を、そのまま飲み込んだ。何を言われたのか一瞬分からず、ゆっくりと瞬きをする。
え? 結婚してないって、言ったのか?
え、そんな訳はない。左手の薬指に指輪をしていた筈だ。……今はしていないけど。
え?
「でも、指輪が……」
「指輪? 指輪って、何」
「いつも左手の薬指に……結婚指輪が……」
「ああ! あれか」
成瀬は奈津の上から体をどけると、ベッドの上に座り直した。つられて起き上がった奈津も、向かい合って座る。
「あれは、会社の備品だ」
「び……ひん……」
奈津は、思考が追いつかないまま、固まった。
成瀬は奈津を真っ直ぐに見ると、事実と思しきことを話した。
「ああ。あれは会社の備品だ。独身だとな、時々ややこしいことになったりするんだよ。嫉妬深い新郎とか……面倒くさいから、職場ではいつもつけてる。ていうか、里崎も独身だけどつけてるぞ? 知らなかったのか」
「………」
奈津は里崎の手を意識したことはなかった。今日も、目の前でバインダーをめくる手元を見たような気がするが。
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