ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 8月の、第1日曜日。

 久しぶりに訪れたGホテルは、朝の爽やかな陽射しに庭の緑が美しく映えて、今日の結婚式を祝福しているかのように見えた。

(ロケーションはいいんだよな、ここ。前に来たのは去年の今頃だったから……1年ぶりか)

 庭で水を撒いている顔馴染みのスタッフが薫に気付き、手を上げてくれる。それに軽く会釈を返して、薫は通用口に回った。

「あれ、本城さん! 久しぶりだね」
「ご無沙汰してます」

 にっこりと笑う守衛のおじさんに、薫の頬も綻んだ。
 このホテルは従業員同士の仲が良くて、皆気さくに声を掛けてくれる。出入りする業者としては、とても働きやすい会場だった。

 というのも、ホテルによっては業者に冷たいところもあるからだ。業者と馴れ合わないという方針は理解できるが、挨拶さえ返してもらえないと心が折れそうになる。そういうところでは割り切って仕事をしているが、相川のような新人にはあまり行かせたくないのが正直なところだ。

 バックヤードを進み、今日の披露宴会場となる1階のガーデンルームに辿り着く。スタッフ通路側から中を覗くと、ガラス張りの全面窓から陽光が差し込み、明るい室内ではテーブル上のカトラリーがキラキラと反射していた。各卓中央の空間は、今から花が飾られるのだろう。テーブルクロスは淡いクリーム色で、夏らしい。

(やっぱ、いい会場だよな……さすがに朝から幽霊なんて出ないだろうし)

 さりげなくメイン席後方にも目を向けて、誰もいないことを確認して会場に足を踏み入れる。
 テーブルを避けつつメイン席とは対角の隅にある音響台へ向かっていると、ふいに後ろから声を掛けられた。

「おはようございます! 早いんですね」

 振り返ると、ホテルの配膳スタッフの女の子が、にっこりと笑って立っていた。

「あ、おはようございます」

 挨拶を返して歩く薫に、女の子はにこにこと笑いながら、音響台までついて来た。

「新しい音響の方ですか?」
「え? ああ、俺は今月だけの手伝いなんですよ。ここには何度か来させてもらってるんだけど」
「そうなんですか? 私、初めましてですよね? もう1年以上いますけど」
「あー、じゃあ入れ違ってるのかな。最後に来たの、1年くらい前だから」
「そうなんだ! 私、坂下です。坂下ひなの」
「本城です、よろしく。大学生?」
「当たり!」
「今は夏休み?」
「そうなんです。がんばって稼がないと」

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