ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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          ◇

(──最悪だ。ここまで酷いのは、初めてだ)

 薫は、深いため息と共にがっくりと肩を落とした。

 披露宴は終了し、帰り支度を整えたゲストはざわざわと、出入口に向かっている。
 少し時間が延びたものの許容の範囲内で、披露宴は滞りなく終了──とは、いかなかった。

 余興で、酷いハウリングを起こしたのだ。

 プロの音響が、やってはいけないことが幾つかある。披露宴において言うなら、指定曲のかけ間違いや、キャンドルサービスなど場面中の音楽のブチ切り、いきなりの爆音、などが挙げられるが、中でもハウリングはだめだ。

 キーン! という不快極まりない音は、一気に人を嫌な気分にさせる。まさしく、音の暴力だ。

 スピーカーの近くにマイクがあると、ハウリングは起こりやすい。スピーカーの音をマイクが拾い、そのマイクの音をスピーカーが流し、その音を更にマイクが拾い……という悪循環が限界に達すると、ハウリングが起こる。

 そうならないよう、薫はいつも宴前に周波数を調節し、本番中少しでも予兆があれば音量、音質を調節してハウリングが起きないよう細心の注意を払っている。

 だが、今日のハウリングは、酷かった。

 余興が始まってすぐに予兆があったので、薫は音量を下げた。余興をしていた友人たちも気が付いたようで、マイク同士を離してくれた。それでも、一度起こりかけたハウリングは止まらなかった。誰もが生理的に受け付けないであろう金属音は増幅し、あっという間に披露宴会場を満たした。

 キャプテンの原田は驚いて、その友人のワイヤレスマイクを奪ってスイッチを切った。
 薫は、ミキサー卓のマスターボリュームの赤いフェーダーを、一気にゼロまで引き下げた。『マスターボリューム』を、切ったのだ。それなのに──ハウリングは、止まらなかった。

 時間にすると、5秒……くらいか。5秒は、長い。

(何にしても……キャプテンと話さないと)

 余興は披露宴の後半、終盤の方だったので、キャプテンの原田とはまだ話せていない。

 ゲストが全員退出したところで、薫は、メイン席で装花をまとめている原田に近付いた。

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