ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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          ◇

 1002号室と書かれた客室の広いベッドに横になると、ぐらりと一気に酔いが回ってきた。

 ──違う。酔っているのでは、ないと思う。全身がどくどくと脈打ち、やけに体が火照る。
 部屋に入ってすぐ、高嶺が奈津の上着に手を掛けた時には、ぞくりとした。

「上着、脱ぎなさい。楽になるから」

 するすると上着を脱がされると、その衣擦れと布越しに触れる高嶺の手の感触に、ぞくぞくと全身が粟立った。……肌が敏感になっているのだ。妙に息苦しい。この感覚は……

 一旦倒れ込んだ体は鉛のように重く、ベッドに吸い込まれるようだった。

 高嶺の手が、奈津のネクタイに伸びてくる。

「ほら、ネクタイを外してあげよう」
「あ……」

 しゅる、とネクタイを抜き取られ、椅子の背に投げられた。そのままシャツのボタンに、手が掛かる。

「……大丈夫です……」

 2つ目のボタンが外されたところで、かろうじてその手首を掴んだ。

「いいから、楽にしていなさい」

 奈津の手は、ほとんど力が入らなくて、高嶺は手首を持たれたまま次々にボタンを外していった。

「……やめてください……」

 奈津のか細い訴えに、鳩尾の辺りまでボタンを外して、高嶺の手は止まった。

「っ、」

 首筋に手を差し入れられ、体がぴくりと反応する。そのまま襟元を開くと、ふいに顔を埋められて鎖骨に唇の感触が当たった。

「んっ……っ、ん……」

 奈津は、涙が滲んできた。

「何で……こんな……」

 高嶺は顔を上げて、奈津を真上から見下ろした。

「君がいけないんだよ。人のものに手を出すから」

「そ……」

 言い掛けた奈津の口を、高嶺の唇が覆った。すぐに、分厚い舌がぬるりと入ってくる。それは、奈津の口腔内をぐるりと舐め回した。

「んんっ、んっ……」

 舌が絡め取られると、どくんと下腹部が大きく脈を打った。きつく閉じた奈津の目から涙がぽろりと零れ落ちると、高嶺はそっと唇を離した。

「はっ……はっ……は……」

 息は荒くなる一方だった。目の縁を赤く染め、上気した顔は首元から桜色が広がっている。薄く開いた瞼の間から、漆黒の瞳が濡れて揺らめき、妖艶に誘っているようだった。

「君は、可愛い反応をするね。真一が夢中になるのも分かる」

 高嶺の乾いた手が、奈津の頬を優しく撫でた。

「……さっきの、カクテル……」
「ん? ああ、少しね、気持ちの良くなる薬を入れておいた。こんなに効くとは思わなかったけどね。大丈夫、明日の朝には抜けるから」

 高嶺は、奈津の額に唇を押し当てた。そのまま、顔のあちこちにキスを落としてゆく。

「……あ……あぁ……」

 自分に覆い被さってくる高嶺を押し退ける力は、今の奈津にはなかった。

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