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第一章 勇者の聖剣が呪われてた
ループする
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ここへ来るまでほとんど一本道だった筈。それなのに目の前には見覚えのある光景。考えられるのは最初の場所を正確に写した別の場所である、もしくは何らかの理由で初めの場所に戻って来た、その二点だ。辺りを見渡すが見れば見るほど最初にアナスタシアンと合流した地点に似通っている。
「盗掘者避けにループの魔法がかかってたのかも知れないわ」
「なるほど……」
一本道に見えて実は隠された正しい道があったり、空間ごと歪めて任意の場所から進めないようになっているループの魔法。遺跡が遺跡になる前、つまりはここが正しく神殿として機能していた頃は神殿魔術師が高価な神具を守るため使っていたと言われている。しかしここが神殿でなくなった時に神具と共にループ魔法も解除されているのが常だ。
「稀にどうしても移動できなかった神具を守るのにループの魔法を維持する遺跡がある、って本で読んだことがあります」
ミズイロの愛読書『ナルソン・ヴィクサムの遺跡考察』にそんなエピソードがあった。何度進んでも同じ場所に戻され苦労した遺跡があったと。
そのループを超えて辿り着いた宝物庫には神々しい太古の槍が安置されていたが、その槍の前には二体のガーゴイル像があって近寄れば石の筈の像からは禍々しいうなり声がした。
これは人間如きが触れていい代物ではない、とナルソン博士はその遺跡の場所は一切語っていない。それがまた遺跡マニア達にとってはたまらないロマンを感じるのだった。
「ここにも神具があるって事か?」
その一言に遺跡マニアは目を輝かせるが、すぐに冷静になった。
「もしそうなら学者さん達がもっと騒いでそうな気がしませんか?」
「確かにそうねぇ……。ループで進めないなら私達について遺跡に来てそうだし」
「学者は魔物が巣を作って困ってるとしか言ってなかった」
「う~ん……。魔物の巣らしき物もなかったし……一度外に出てみましょうか」
このまま来た道を引き返せば出口に辿り着けるーー筈だったのだが。
出入口方面に歩いたにもかかわらず辿り着いたのはまたもあの透明な橋がある場所で。
「え……ちょっと、永遠ループ……?」
盗掘者避けならば帰ろうとするのを邪魔される事はない。
「……ぼ、僕ここでミイラになるの嫌ですよぉぉぉ!!?」
このまま出られなかったらどうなるか。
ミズイロとアズラルトは初めから食料を持っていない。アナスタシアンも精々3日分程度、それも3人で分ければ2日保つかどうかといった所。
水は最悪魔法で何とかなるが食料を出す魔法はない。
「お前!不安になる事叫ぶなよ!」
「だってぇ!!」
すでに半泣きを通り越して滂沱の涙を流すミズイロに縋られたアズラルトがその額を押さえて引き剥がそうとしている。しかしスッポンと化したミズイロは引き剥がせず仕方なく縋られるまま放置した。無駄な体力は使いたくない。虚無の表情である。
アナスタシアンは動揺しまくる弟達へ、というよりアズラルトに抱き着くミズイロと無意識にその肩を抱く弟へ「尊いわ……」と一言呟いて手を合わせた後で冒険者らしく落ち着いて言った。
「盗掘者避けのループの魔法は定期的に魔術師が魔力を補充しないと効力を失うわ」
「……魔力が尽きるのを待てって?その前に俺達が死体になるぞ」
「話は最後まで聞きなさい、アティ。学者達がループの魔法について何も言わなかったって事は、ここにはその仕掛けはなかった筈よ」
「つまり?」
「私達がここへ入ってから誰かがループの魔法をかけた、って事」
その相手が今この場にいてループをかけ続けているのか、元々あった魔道具にその魔力を注いで発動させたのかはわからない。
しかし帰り道すら塞ぐその魔法は多少の魔力量ではないはず。直にかけているならいずれはMP切れを起こすし、魔道具に魔力を注入して発動させているなら魔道具を見つけられれば必然的にその術師も発見できる。魔道具は直に手を触れなければ魔力を注げないからだ。
「ループの魔道具はループする場所の外には仕掛けられない。魔道具ならこの道のどこかにある筈よ。魔術師本人がいるとしても同じ事ね。離れすぎると魔法は使えない」
それに、とアナスタシアンは続ける。
「魔道具に魔力を注いでるだけなら魔術師用に抜け道もあるでしょうし」
魔道具に魔力を注いだ魔術師本人がループし続けたら意味がない。その為に脱出用の抜け道が必ずある筈だ。
「後は貴方達がどうしたいか、ね。魔術師を絞めあげたいなら魔道具を探して魔力補充に来た所を袋叩きにしてもいいし、とにかく先に抜け道を見つけて今すぐ脱出するか」
「出ましょう!!」
ミズイロはアズラルトに抱き着いたまま叫んだ。
「遺跡は好きだけど、閉じ込められるのは嫌ですぅ!!」
「俺達地図を探せって言われたんじゃなかったか」
「そんなのどうでも良いですよぉ!!命の方が大切でしょ!?」
ねぇねぇ!と涙目のミズイロにがくがく揺さぶられてもアズラルトは虚無の表情のままである。しかしアナスタシアンは知っている。その虚無の表情の裏を。
もう、馬鹿ねアティ。そこはぎゅっとして「心配するな、お前は俺が守ってやる」って囁くところでしょう?うるうるお目目のミィちゃんが愛らしいからって固まってる場合じゃないのよアティ。この先そんな事でどうするのよ。ミィちゃんはなんか庇護欲をそそるから、あっという間にどこかの馬の骨に奪われちゃうわよ?
「……王子様……また王女様が……」
「馬鹿!だからあの顔の時は見るなって言ってるだろ!」
アナスタシアンは慈愛の表情である。
「盗掘者避けにループの魔法がかかってたのかも知れないわ」
「なるほど……」
一本道に見えて実は隠された正しい道があったり、空間ごと歪めて任意の場所から進めないようになっているループの魔法。遺跡が遺跡になる前、つまりはここが正しく神殿として機能していた頃は神殿魔術師が高価な神具を守るため使っていたと言われている。しかしここが神殿でなくなった時に神具と共にループ魔法も解除されているのが常だ。
「稀にどうしても移動できなかった神具を守るのにループの魔法を維持する遺跡がある、って本で読んだことがあります」
ミズイロの愛読書『ナルソン・ヴィクサムの遺跡考察』にそんなエピソードがあった。何度進んでも同じ場所に戻され苦労した遺跡があったと。
そのループを超えて辿り着いた宝物庫には神々しい太古の槍が安置されていたが、その槍の前には二体のガーゴイル像があって近寄れば石の筈の像からは禍々しいうなり声がした。
これは人間如きが触れていい代物ではない、とナルソン博士はその遺跡の場所は一切語っていない。それがまた遺跡マニア達にとってはたまらないロマンを感じるのだった。
「ここにも神具があるって事か?」
その一言に遺跡マニアは目を輝かせるが、すぐに冷静になった。
「もしそうなら学者さん達がもっと騒いでそうな気がしませんか?」
「確かにそうねぇ……。ループで進めないなら私達について遺跡に来てそうだし」
「学者は魔物が巣を作って困ってるとしか言ってなかった」
「う~ん……。魔物の巣らしき物もなかったし……一度外に出てみましょうか」
このまま来た道を引き返せば出口に辿り着けるーー筈だったのだが。
出入口方面に歩いたにもかかわらず辿り着いたのはまたもあの透明な橋がある場所で。
「え……ちょっと、永遠ループ……?」
盗掘者避けならば帰ろうとするのを邪魔される事はない。
「……ぼ、僕ここでミイラになるの嫌ですよぉぉぉ!!?」
このまま出られなかったらどうなるか。
ミズイロとアズラルトは初めから食料を持っていない。アナスタシアンも精々3日分程度、それも3人で分ければ2日保つかどうかといった所。
水は最悪魔法で何とかなるが食料を出す魔法はない。
「お前!不安になる事叫ぶなよ!」
「だってぇ!!」
すでに半泣きを通り越して滂沱の涙を流すミズイロに縋られたアズラルトがその額を押さえて引き剥がそうとしている。しかしスッポンと化したミズイロは引き剥がせず仕方なく縋られるまま放置した。無駄な体力は使いたくない。虚無の表情である。
アナスタシアンは動揺しまくる弟達へ、というよりアズラルトに抱き着くミズイロと無意識にその肩を抱く弟へ「尊いわ……」と一言呟いて手を合わせた後で冒険者らしく落ち着いて言った。
「盗掘者避けのループの魔法は定期的に魔術師が魔力を補充しないと効力を失うわ」
「……魔力が尽きるのを待てって?その前に俺達が死体になるぞ」
「話は最後まで聞きなさい、アティ。学者達がループの魔法について何も言わなかったって事は、ここにはその仕掛けはなかった筈よ」
「つまり?」
「私達がここへ入ってから誰かがループの魔法をかけた、って事」
その相手が今この場にいてループをかけ続けているのか、元々あった魔道具にその魔力を注いで発動させたのかはわからない。
しかし帰り道すら塞ぐその魔法は多少の魔力量ではないはず。直にかけているならいずれはMP切れを起こすし、魔道具に魔力を注入して発動させているなら魔道具を見つけられれば必然的にその術師も発見できる。魔道具は直に手を触れなければ魔力を注げないからだ。
「ループの魔道具はループする場所の外には仕掛けられない。魔道具ならこの道のどこかにある筈よ。魔術師本人がいるとしても同じ事ね。離れすぎると魔法は使えない」
それに、とアナスタシアンは続ける。
「魔道具に魔力を注いでるだけなら魔術師用に抜け道もあるでしょうし」
魔道具に魔力を注いだ魔術師本人がループし続けたら意味がない。その為に脱出用の抜け道が必ずある筈だ。
「後は貴方達がどうしたいか、ね。魔術師を絞めあげたいなら魔道具を探して魔力補充に来た所を袋叩きにしてもいいし、とにかく先に抜け道を見つけて今すぐ脱出するか」
「出ましょう!!」
ミズイロはアズラルトに抱き着いたまま叫んだ。
「遺跡は好きだけど、閉じ込められるのは嫌ですぅ!!」
「俺達地図を探せって言われたんじゃなかったか」
「そんなのどうでも良いですよぉ!!命の方が大切でしょ!?」
ねぇねぇ!と涙目のミズイロにがくがく揺さぶられてもアズラルトは虚無の表情のままである。しかしアナスタシアンは知っている。その虚無の表情の裏を。
もう、馬鹿ねアティ。そこはぎゅっとして「心配するな、お前は俺が守ってやる」って囁くところでしょう?うるうるお目目のミィちゃんが愛らしいからって固まってる場合じゃないのよアティ。この先そんな事でどうするのよ。ミィちゃんはなんか庇護欲をそそるから、あっという間にどこかの馬の骨に奪われちゃうわよ?
「……王子様……また王女様が……」
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アナスタシアンは慈愛の表情である。
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