【本編完結】農民と浄化の神子を並べてはいけない

ナナメ

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第一章 異世界に来ちゃった

壊しちゃった

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 起きて薬飲んで、ご飯食べて寝て薬飲んで……と、流石にその生活も4日目になると辛くなってきた。何せ俺自身には体調が悪い自覚がないんだ。元気なのにベッドから出られない生活に鬱々するのは仕方ないと思う。
 2日目からはローゼンさんが本を用意してくれたけど、小難しい文章ばかりで全く理解できないし、何より何で見たこともない文字の羅列が文章として理解できてるのかわからないのが怖いし。
 自分でもワガママじゃないのか、と思うけど自分では元気だと思ってるのに何も出来ないっていうのは本当にキツいんだ。だから頼むから何かやらせて欲しいと真剣に訴えたら、その日は隊服のディカイアスさんが部屋に迎えに来た。

「何かやるにしても、まずは能力を把握する必要があるからな」

 騎士団内では俺の黒目黒髪について周知されてるけど、騎士団以外の場所では黒目黒髪は珍しく、誘拐して金にしようとする輩が少なからずいる事。
 騎士団の人間以外にはついていかない事。
 何か変わった事があれば必ずディカイアスさんやローゼンさんに報告する事。
 他にも色々注意事項を言われ、うんうん頷きながら辺りを観察する。石畳の廊下に、石の壁。天井に吊り下げられたランプには小さな光る石が入ってていてそれがほんのりと辺りを照らしている。磨き上げられた窓の外は空と背の高い木のてっぺんしか見えないからここは階層が高いんだろう。ローゼンさんの部屋から出て階段に到達するまで部屋数はそんなに多くなく、ここは団長、副長クラスが使っているそうだ。
 うーん……何て言うか……中世のお城、って感じ……?
 物珍しくてキョロキョロする俺は、危なっかしい、と眉間にシワを寄せたディカイアスさんに手を繋がれてしまった。
 そのままの状態で結構歩いて辿り着いた部屋は、木製のデスクが並び、書類のような紙が積まれた事務所のような部屋だった。というか事務所なんだろう。数人がデスクに向かっていて、何やら計算器的な物を使ってカタカタ計算しては書き込んでいる様子だ。

「メイディ」

 一番奥のデスクにいた薄いピンクの髪をした眼鏡の人が顔をあげる。一瞬眼鏡にモヤッとしたけど、あのクソ眼鏡と似ても似つかない優しげな赤い瞳がにっこり細められて、無意識に詰めていた息を吐き出した。

「おはようございます。貴方がスナオ様ですね」

「おはようございます」

 頭を下げてから少し首を傾げる。メイディさんの目線がやや下にあるからだ。その目線の先を追って……

「わぁ!!?」

 思わず手を振り払ってしまった。
 そう言えばディカイアスさんに手を繋がれたままだった!!いやいや、ディカイアスさんも部屋に入ったなら離してくれたら良かったのに!忘れてた俺も俺だけど!恥ずかしい……!!!

「タグは用意できてるか?」

 ギャー!と顔を真っ赤にする俺をよそに、ディカイアスさんは淡々と話を進めている。くそぅ、俺ばっかり恥ずかしい思いをしてて何か悔しい!……もしかして、ディカイアスさんも俺の事子供だと思ってたりして……?いや、そもそもキョロキョロソワソワしてる俺が不審な行動を取らないか監視と拘束を兼ねて、手を繋いでいた、というよりも腕を押えていた感覚なのかも知れない。「え、何でこいつ拘束されて赤くなってんの?頭の病気?」とか思われてないとも限らない。そしたら俺は本当にただの変な人だ。
 急にスン、と冷静になった俺をメイディさんは不思議そうな顔で見てから、こちらへ、と手招く。扉を抜けた次の部屋は応接室になってるらしく、毛足の長いフカフカ絨毯と柔らかなクッションが置かれたフカフカソファー。促されて座った俺に、メイディさんが金属の小さなプレートを手渡してくる。何だこれ?

「これは身分証のような物です。これに少し魔力を流せば貴方の能力値が分かるようになります」

 ほうほう。ゲームのステータス画面みたいな物か?
 ……それって……職業農民(浄化の神子)とか出てきたりしないよね……?分かるのは能力値だけだよね?

「……能力値って……例えばどんな……?」

「物理が強いか魔力が強いかの判定なので、基礎となる力などですよ」

「なるほど……」

 ならバレない……よな?

「あの……魔力を流すって、どうやれば……」

 メイディさんは嫌な顔1つせず、丁寧に教えてくれる。
 というか俺に魔力があるだろうか、と一瞬思ったけどそういえばあのボードにも魔力の欄はあった気がする。ということはもしかして、俺って魔法が使えちゃったりするのか!?思わずそわっ、となった俺にすかさずメイディさんから

「集中してくださいね」

 と注意が飛んできた。すいません……。
 言われるままタグを握り、自分の中に水を流して、タグに少しだけ水を溜めるイメージで、と言われる通りにさらさら流れる水をイメージ。でもそこで溢れんばかりの俺の想像力がまたも邪魔をした。
 小さな滝のある渓流にキラキラ光る魚の群れ。大きな岩に降り注ぐ陽光。

 ――あぁ、のんびりと渓流釣りがしたいなぁ……

「……って、止まって!!止めなさい!!!!」

「……っ!!?」

 ハッ、と気付けば目の前にはタグを握る俺の手のひらを抉じ開けようとしているディカイアスさんと、必死の形相で俺の肩を揺さぶるメイディさん。

「え……」

 手のひらに握り込んでいたタグに何やら違和感があって恐る恐る開いてみると、そこには見事に粉砕された破片が。

「うわ、ご、ごめんなさい……!!!」

 壊しちゃったー!!!嘘だろ、これ壊れるの!?最初に言っといてー!!

「……ディカイアス団長」

「……他言無用だ」

「わかってますよ!こんなこと公になったら大問題です!」

 壊したからですか!?もしかしてめっちゃ貴重な物なんですか!!?謝って許してもらえるならいくらでも謝るけど…ど、どうなんですかーー!!?

「あ!スナオ様!」

「はいっ!!」

 ハッとしたメイディさんに呼ばれ思わずビシッと直立する俺。

「あ……あれ……?」

 そして急に立った反動か、頭がくらり、として……数日ぶりに俺はぶっ倒れたのだった。

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