【本編完結】農民と浄化の神子を並べてはいけない

ナナメ

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第一章 異世界に来ちゃった

side ディカイアス・マクシノルト

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執務室で報告を聞きながらディカイアスはその流麗な眉をしかめた。

「未だに足取りもわからぬ、か…」

あの日あの場から行方を眩ませたパワハルについての報告は毎日それのみ。あの場にいたことは影達からの報告で間違いはない。であるというのに、パワハルがあの場から去った姿を誰も見ていないのである。否、逃げ出した姿は見たのだが追いかけている途中に忽然と行方を眩ませた、としか言えない状況だったらしい。

「幻術を使われた形跡はなかったそうだな」

「ええ。第三騎士団の魔術師に現場を調べてもらいましたが、魔術の形跡は何もない、と」

答えるローゼンも焦れているのか、珍しく苛立たしげに眉を寄せている。

足跡もあの日の雨で流されてしまっている。魔術を使ったとしたら何かしらの痕跡は残るはずだがそれもない。

「…あの者がスナオを諦めたとは到底思えん。あれは私の物だ、と叫んでいたらしいからな」

「早く見つけなければまたスナオ様に危害を加えかねません」

「わかっている。第三騎士団に頼りきりなのは申し訳ないが、パワハルの私物を使って探索魔法を使うことになった」

私物に残る痕跡を辿り探索の網を張り巡らせる事で人を捜す魔法は、その規模の大きさから余程の事がない限りは使用しない。使う時は主に要人が行方不明の時や凶悪犯の追跡など必要に駆られた時である。
今回は神子の身柄に関わる事だけに腰の重い上層部も早々に使うことにしたらしい。

「これでも引っ掛からないとなると厄介だが…」

「今は結果を待ちましょう」

「そうだな」

影も問題なくついている。あの日はパワハルを引きずり出す為に一旦手を出さずに耐えた影達はあの日以降、何があっても次は必ず敵の手の内に捕らわれる前に止める、と誓っていると聞いた。

(頼もしい事だ)

あの日の恐怖を再びすなおが味わう事はさせない。

そこで、ふ、とディカイアスはローゼンを見た。最初に出会った時から彼に心惹かれていたのは目の前の腹心の部下も同じだろう、と思っている。未だに寝食を共にしているのが独占欲でないのならば一体何だと言うのか。

「…ローゼン」

「はい?」

「私はスナオに、好ましいと思っている事を伝えた」

「…団長が?」

そうだ、と頷けばやや困ったような表情になる。何と答えるのが正解か悩んでいるーーーそんな表情だ。

「お前も彼に心惹かる一人だろう。黙っているのも公平ではないと思ってな」

「俺は…」

「私達兵士は明日も知れぬ身だ。このまま知らせることなく影から見守るか、想いを伝えるかはお前の勝手だが…私は私で好きに動く、と伝えておく」

ただいきなり変に距離を置いてスナオを悲しませるような事はするな、と釘をさした所でノックが聞こえ、話はそこで終わってしまった。

例えローゼンがどんな答えを出そうと、ディカイアスは遠慮はしないと決めている。それはいつ死ぬかもわからない職業柄、後悔はしたくないし何よりもし自分が死んだとしても…

(お前の心に少しでも残る事が出来るだろう)

きっと自分のこれもまた独占欲なのだろう。

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