【本編完結】農民と浄化の神子を並べてはいけない

ナナメ

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第三章 神子

後悔

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ガチャリ、と音を立てた扉に目を向ける。

「スナオ様…ッ!!」

「エテュセ!!」

良かった、本当に無事だった。思わず涙ぐむ俺にエテュセが近寄ろうとするけれど、その前にエテュセの首から伸びる鎖を引いたのは、俺が最後に見た時エテュセを拘束していた騎士然とした奴だった。

「悪いが、直接の接触は許されてなくてな」

「あんたは?」

「ん?俺はこの国の騎士だ。名前は知らなくてもいいだろ」

「…うん。知りたくない」

誘拐犯の名前なんて聞きたくもない。いや、名前を知っておいた方が後々良いんだろうか。一瞬葛藤するけど、こいつが名乗った所でそれが本名かなんて俺にはわからないしな。特徴だけ覚えておこう。
そう思ってじっと観察する。ダティスハリアは紺の髪が多いと聞いたけど、目の前の相手はコバルトブルーの髪に紫の瞳をしている。背はローゼンくらいだろうか。彫りの深い顔は海外の俳優を思わせる。やっぱり黒の甲冑を身に着け、濃紺のマントをつけたその立ち姿に隙はない。
その姿を視界に入れながら白いワンピース状の服を着せられてるエテュセを見た。

「エテュセ、傷は…」

「ご心配をおかけして申し訳ありません。手当は済んでおりますので…」

「敵の施しは受けないって相当暴れたけどな~」

口を挟んでくる相手を二人揃って睨むと、そいつは肩を竦めて苦笑した。

「スナオ様は…ご無事ですか」

何をどう聞けばいいかわからなかった様で少しの逡巡の後そう訊かれて、俺は苦笑いと共に今はまだ何も、と事実だけを伝えた。
まだ何もない。けどこの先も何もないわけがない。

ふと見るとエテュセも何か決意したような顔をしている。
そう、今ここにいるのは俺達とこの騎士然とした相手のみ。二人で攻撃したらなんとかなるんじゃないか?って、多分エテュセも同じことを考えてる。

けれど。

「滅多な事は考えん方が身のためだぜ。ここで俺を凌いでも、部屋を出れば敵だらけだ」

「別にまだ何も言ってない」

「顔が反抗したそうだった」

そりゃ当たり前だろう。
そっちが人質とって無理矢理従わせたくせに、友好的に対応してもらえると思うなよ!

でも確かに相手の言う事は最もだ。例え今ここで逃げられたとしても、この建物の構造もわからないし仮に外に出られたって頼れる相手もいない。簡単に見つかって連れ戻されるのが落ちだ。
なら今は我慢して耐えるしかないだろう。

「…エテュセと同じ所にいたい」

「あ~…、それはやめた方がいいな」

「何でだ?」

一緒にいたら相手が無事か、なんてお互いに悶々としなくて済むし、そっちだってこうして会わせろ、って騒がれずに済むのに。
でも言いにくそうに口ごもりそれ以上言おうとしないから、尚も言いつのろうとしたその時だった。

「望む通りにさせたら良いだろう」

部屋の空気が5℃は下がったんじゃないかってくらいひんやりした気配を纏った男が一人、立っていた。



 ◇


騎士団寮の一室でアンリエッタはアルベールを腕に抱き一人打ちひしがれていた。
半身とも呼ぶべき朝陽がいない。その事実が精神をズタズタに切り裂きそうになるのを、腕の中のぬくもりが何度も現実へと引き戻してくれる。

「アルベール…」

朝陽によく似たやや茶色みがかった黒い瞳がアンリエッタを見上げてキャッキャと笑った。

何故あの日朝陽の側を離れるよう仕向けたのか。
何故あの日何者かの襲撃があると朝陽は知っていたのか。
何故あの日森に隠れていた敵を葬り去って戻った時あの場に朝陽の姿がなかったのか。
何故、何故、と訊きたい事が山ほどあるのに朝陽はいない。

あの日、朝陽は言った。

ーーー今日はよくない事が起きそうだ

と。
だから森の方を見てきてほしい、そう言われて、森には騎士団が行っている筈だ、と言ったけど。

ーーーきっと騎士団は間に合わない

何でそんな事を言うのだろう、と。しかしどこか切羽詰まった様子の朝陽に再度促されてそれで彼が安心するなら、と側を離れた。
思えば朝陽の妊娠が発覚し、あの村に腰を落ち着けてから朝陽は時折不安そうにしている事があった。理由を聞いても何でもない、とすぐいつもの朝陽に戻るから結局問い詰める事も出来なかった。

その結果がこれだとしたなら、自分は何て愚かなのか。どんな手を使ってでも朝陽の不安を聞き出すべきだったのだ。そしたらーーー

(側を離れなかった?)

自問する。
答えは、わからない、だ。それは朝陽が隠していた何かの内容によるし、その時の状況にもよる。
けれど、少なくともこうして何が起こっているのかわからずに悶々とする事はなかっただろう。

アンリエッタの髪を引っ張り口に入れようとしているアルベールに頬を寄せる。まだミルクの香りがする柔らかな頬だ。いつも朝陽がしていたように頬ずりをする。

「…アサヒはどこに行ったんだろうな…」

騎士団より前に戻ったアンリエッタと村の自警団は炎に巻かれながら生存者の救出をした。もちろんその時に自宅をいち早く覗いたから、家の中に朝陽がいなかったのは確認している。
どこかで戦っているのか。しかしその時点ではもう襲撃者は姿がなく、もしかしたらアルベールと他の子供達を連れて避難しているのかも、と一縷の望みをかけた。
朝陽が取り残された生存者を見捨てるわけがない、と知りながらそれでも望みを持っていたかった。

後から子供達を見つけ保護した第一騎士団と出会い、子供達から話を聞いている内に希望の糸が次々切られていく。気がおかしくなりそうだ。

「アンリエッタ」

衝動のまま行動しようとしたその彼をディカイアスが呼んだ。

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