【本編完結】農民と浄化の神子を並べてはいけない

ナナメ

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第三章 神子

諦めたくない

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朝陽は言った。

この世界に初めて来た時、俺と同じように奴隷狩りに捕まって、でも運よく助かった俺と違って売られてしまった事。
2年近く性奴隷として穢され続けた事。多分それで魂がこっちに定着したんだろう、って。
ある日朝陽がいた娼館で大規模な家宅捜索があって、違法に集められた奴隷たちの逃亡防止の鎖を第四騎士団が外して回った事。
ほとんどの奴隷は騎士団が保護してくれたのを知って安堵し泣いてたけど、朝陽はまた新たな組織に売り飛ばされるんだ、って勘違いしてその場から逃亡した事。
そして出会ったんだって。その時グレイブ・アンヘルを率いていた当時の隊長に。

「お頭はすぐ俺が何なのかわかったらしくてさ、そのまま保護してくれたんだ」

傷だらけで、薄汚くて、やせ細った朝陽はグレイブ・アンヘルの元で元気になって、戦う術を教わって、傭兵として生きる決意をして。
そしてアンリエッタさんと出会って、つがいだと知って紆余曲折あって結ばれて。
そして当時の隊長は朝陽にその座を譲って引退してしまったらしい。

「酷いよな。俺に頭は無理だって言ったのに、満場一致だからって問答無用でやらされたんだぜ」

朝陽は懐かしそうに笑う。

「…それからな、色々やってあの村で、アルベール生んで、幸せだなって思った時に…モンスターの大群に襲われたんだ」

村人や子供達を避難させたアンリエッタさんが戻って来た時には朝陽は死んでて。自分でも驚いたらしいけど魂だけの存在になってしばらくアンリエッタさんに呼びかけたけど気付いてもらえなくて。

「…アンリがな…、俺がいないのが辛くて耐えられないって」

それでも必死でアルベール君のお世話をしてたみたいだけど、ある日突然アンリエッタさんを繋いでた最後の糸が切れてしまったらしい。

「…一緒に俺のところ行こう、って…アンリがアルベールの首を絞めて殺したんだ。その後自分も首を吊った」

「そんな…」

「番を失ったイオが狂うのは聞いてたけど、ここまでだと思わなくて」

自分が死んだ所為だって朝陽は泣いて、でも次に目を開けたら最初にグレイブ・アンヘルに保護された日に戻ってたんだって。
戻った理由はわからない。だけど今回は絶対にあんな結末は迎えない。そう心に決めて、アンリエッタさんに番だと気付かれないようにして、あの村に住むのもやめた。なのにやっぱり朝陽は死んで、朝陽が番だって気付いてたアンリエッタさんは朝陽を庇おうとして一緒に死んでしまった。
それでまた目を開けたらグレイブ・アンヘルに保護された日で。なら次は最初からアンリエッタさんに全て話して一緒に回避する方法を考えてもらおうと思って、全てを話した。荒唐無稽な話を信じてくれて回避方法も真剣に考えて。グレイブ・アンヘルを辞めずに、あの村にも行かずに、王都でアルベール君を生んで。それでも朝陽は死んだ。グレイブ・アンヘルのみんなはアンリエッタさんを支えてくれて、だけどアンリエッタさんはアルベール君と朝陽の所へ行くと死んでしまった。
だったら初めからグレイブ・アンヘルに残らなければ、と戻ったその日に逃げ出して徹底的に避けてたら街中で発情期が来て、蹲ってる所にアンリエッタさんが来てしまって結果は今までと同じ。毎回朝陽も、アンリエッタさんも、生まれてたらアルベール君も死んでしまう。

「だから今回は最初から諦めてたんだ…」

どう足掻いても結果は同じ。ならもういいじゃないか、と。今を幸せに生きて、もうそれだけで。最期の時は今度こそアンリエッタさんに背負わせないように自分が二人を殺してから戦いに行こう、って。

「なのに、今回はいつもと違ったんだ」

「違う?」

「お前がここにいる」

「あ」

そうか。俺に記憶がないだけかと思ったけど記憶を持ったまま5回ループし続けてる朝陽が言うなら間違いない。俺は朝陽の前4回の人生にはいなかった人間なんだ。

「村を襲ったモンスターの大群は森の奥の瘴気が原因だった。でも今回はお前がこの世界に現れた。だから…期待しちまったんだ」

もしかしたら、あの日の運命を変えられるかも知れない。もしかしたら、自分もアンリエッタやアルベールと一緒にあの日を超えて笑って生きていけるかもしれない。現に毎回死んでいた襲撃の日より長く生きている、そう言って瞳を頼りなく揺らした朝陽は初めて聞くような弱った声で俺を呼んだ。

「…なぁ、朴」

「朝陽…?」

朝陽の足元だけ、さっき俺がいたみたいな暗闇が口を開けている。黒い靄が朝陽を絡めとっていく。

「朝陽!!」

「朴、俺は生きたいんだ。アンリと、アルベールと、笑って生きていたいんだ…ッ」

暗闇に引きずり込まれながら手を伸ばしてくる朝陽に俺も手を伸ばす。しっかり握ってくる手の力強さに俺の手がみしみし音を立てて痛いけど、それだけ朝陽も必死なんだと俺もその手を強く握り返した。

「俺はまだ、死にたくない!あいつらと生きていたい!!諦めたくない…ッ!!」

「朝陽!今どこにいるんだ!?助けに行くから!!約束したもんな!お前が危ない時は俺が助けに行くって!」

「雷が鳴るーーーー」

声はそこで途切れて、あんなに痛かった手からは痛みが消える。朝陽が握ってた証に手は赤くなってたけど、もうその先に朝陽はいない。

「朝陽…?」

朝陽がいた場所も何もなくて、振り返っても誰もいない。

「…朝陽!朝陽!!」

呼んでももう返事はなかった。

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