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第三章 神子
何か違和感
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琴音の為?…確かにそう言われたらそうなのかもしれない。でもずっと違和感が拭えなかった。
だって琴音の魔力は俺と同じ3S。その琴音すら内側から封印を解くことが出来なかった。なのに何でこいつはその封印を解くことが出来たんだ?バレないように封印を掛けなおしたのは琴音っぽいって聞いたけど、そもそもどうやって封印を解いたんだろう。
「…琴音の封印を解いて、琴音が国を滅ぼすのを見届けて…あんたはそれからどうするつもりだった?」
「どうするとは?」
アンダルクは口元を薄っすら歪めて笑ったようだ。
何だろう。うまく言えないんだけど…違和感が半端ない。琴音はアークオランを憎んでる。それは変えようもない事実。だけどどうして他の国を巻き込んだ?琴音が壊したいのはアークオランじゃないのか?
「ダティスハリアを巻き込んだのは何でだ?琴音の復讐には関係ない筈だ」
琴音に関係がないのならダティスハリアを潰そうとしたのはアンダルクなんじゃないの?琴音を使って、さっきのグリニッジの言葉が本当なら自分の肉親さえ道具にして、あの狂った王を生み出して。マグアイーズの思惑通り、俺が瘴気に飲まれて全てを破壊する道具になってたらダティスハリアごと焼き払ったと思う。その後でアークオランを潰しに行っただろうか。
下腹がずきりと痛んで思わず腹を押さえた。この瘴気の中、俺の中に残ってる瘴気が外に出ようと蠢き始めたのがわかる。
負けたらダメだ。飲まれたらダメだ。しっかりしろ!
「…何かおかしいんだよな。どうして後ろの瘴気は琴音じゃなく、あんたに集まってるんだ?」
琴音自身からも禍々しい程の瘴気が溢れ出てるけど、どうして瘴気の大元から流れ出る靄は琴音じゃなくアンダルクに向かうんだろう。この瘴気が琴音の所為だったなら靄は琴音に集まる筈なのに。
ざわり、と空気がざわめいて全員警戒態勢だ。
「…神子の目は欺けないか」
アンダルクは相変わらず唇を歪めて笑っている。その瞳が禍々しい赤い光を帯びた。ナルデビルやヘルクロウのように。
◇
雷が真横に落ちて、その閃光に思わず目が眩む。しかし目を閉じている暇はない。魔力の塊をぶつけてくる琴音は魔力の低いパルティエータにとって天敵以外の何者でもない。魔法防御を底上げするアイテムを身に着けていても、追いついてきた魔法隊が結界を張ってくれても傷は増えていく。
「僕にもこうやって僕の為に戦ってくれる番がいたんだよ」
瘴気に侵された世界で、ただ一つ信じられたのは番と仲間達との絆だった。きつくても、辛くても、時に仲間を失い、時に自身も傷を負いながら救った世界は琴音から全てを奪った。大切な番を。信じていた仲間を。琴音の時間を。
「その番と救った世界をてめぇで壊してたら世話ねぇな」
「だって仕方ないでしょう。皆がもういないんだから。僕は皆がいる世界だから救いたかったんだ」
「で?悲観して恨んで壊して、それで満足か?てめぇの顔なんか知らねぇ今の王族殺してお前は満足なのか」
「知らなくても、アークオランの血が絶えるならそれでいい。僕から全て奪ったように、奴らから全て奪ったら僕はそれで満足だよ」
後は朴を僕と同じ所まで堕として一緒に連れて行く、と言われカッと頭に血が上る。
「スナオは俺の番だ!」
「アークオランに味方する子の願いは聞いてあげられないな」
ひゅ、と頬を横切る不可視の刃をほとんど勘で避けて地面を蹴った。パルティエータの強みは素早さだ。瞬時に詰めた間合いは、変わらず微笑みを浮かべた琴音の腕の一振りで再び距離が開く。咄嗟に避けなければ地面から突き出す鋭く尖った岩に貫かれる所だった。
「隊長!無謀な事しないでください!」
追いついたハーロットがパルティエータを狙う炎を弾く。しかし琴音との実力差がありすぎて弾けたのはほんの数センチだ。ただ琴音も朴と同じく魔力が高い分物理には弱い筈。懐に飛び込む事さえ出来ればダメージが与えられるのに、そもそも近寄る事すら出来ない。しかも琴音と戦いながら周りのモンスターにも注意を払わないといけないのがきつい。
騎士である以上こういった乱戦は初めてではなく、特に影の仕事は時として多勢に無勢という圧倒的劣勢に立たされることがある。しかし何とか生き残ってここまで来た実力は伊達ではない。伊達ではないのだけれど。
また襲ってきた不可視の刃の気配を察して飛び退く。
(人魚の涙はある。一度なら捨て身で突っ込んでもいけるか?)
「隊長、バカな真似はやめてくださいね」
「ちょっと心読むのやめて~」
「スナオ様に泣かれたいんですか?」
泣かれるのは嫌だ。ベッドの上ならいくらでも泣いて欲しいけど。
「生きて帰るんです。だから馬鹿な事考えないでください」
全然表情の変わらない琴音を見据えながら強く言われてため息をつく。相手は初代神子。瘴気に堕ちて、もう浄化は使えないとはいえその強大な魔力は健在。
対する自分達は魔力が低くて琴音の足をその場から動かす事すら出来ずにいる。
「さて、どうやってお帰り頂いたらいいのかしらね」
だって琴音の魔力は俺と同じ3S。その琴音すら内側から封印を解くことが出来なかった。なのに何でこいつはその封印を解くことが出来たんだ?バレないように封印を掛けなおしたのは琴音っぽいって聞いたけど、そもそもどうやって封印を解いたんだろう。
「…琴音の封印を解いて、琴音が国を滅ぼすのを見届けて…あんたはそれからどうするつもりだった?」
「どうするとは?」
アンダルクは口元を薄っすら歪めて笑ったようだ。
何だろう。うまく言えないんだけど…違和感が半端ない。琴音はアークオランを憎んでる。それは変えようもない事実。だけどどうして他の国を巻き込んだ?琴音が壊したいのはアークオランじゃないのか?
「ダティスハリアを巻き込んだのは何でだ?琴音の復讐には関係ない筈だ」
琴音に関係がないのならダティスハリアを潰そうとしたのはアンダルクなんじゃないの?琴音を使って、さっきのグリニッジの言葉が本当なら自分の肉親さえ道具にして、あの狂った王を生み出して。マグアイーズの思惑通り、俺が瘴気に飲まれて全てを破壊する道具になってたらダティスハリアごと焼き払ったと思う。その後でアークオランを潰しに行っただろうか。
下腹がずきりと痛んで思わず腹を押さえた。この瘴気の中、俺の中に残ってる瘴気が外に出ようと蠢き始めたのがわかる。
負けたらダメだ。飲まれたらダメだ。しっかりしろ!
「…何かおかしいんだよな。どうして後ろの瘴気は琴音じゃなく、あんたに集まってるんだ?」
琴音自身からも禍々しい程の瘴気が溢れ出てるけど、どうして瘴気の大元から流れ出る靄は琴音じゃなくアンダルクに向かうんだろう。この瘴気が琴音の所為だったなら靄は琴音に集まる筈なのに。
ざわり、と空気がざわめいて全員警戒態勢だ。
「…神子の目は欺けないか」
アンダルクは相変わらず唇を歪めて笑っている。その瞳が禍々しい赤い光を帯びた。ナルデビルやヘルクロウのように。
◇
雷が真横に落ちて、その閃光に思わず目が眩む。しかし目を閉じている暇はない。魔力の塊をぶつけてくる琴音は魔力の低いパルティエータにとって天敵以外の何者でもない。魔法防御を底上げするアイテムを身に着けていても、追いついてきた魔法隊が結界を張ってくれても傷は増えていく。
「僕にもこうやって僕の為に戦ってくれる番がいたんだよ」
瘴気に侵された世界で、ただ一つ信じられたのは番と仲間達との絆だった。きつくても、辛くても、時に仲間を失い、時に自身も傷を負いながら救った世界は琴音から全てを奪った。大切な番を。信じていた仲間を。琴音の時間を。
「その番と救った世界をてめぇで壊してたら世話ねぇな」
「だって仕方ないでしょう。皆がもういないんだから。僕は皆がいる世界だから救いたかったんだ」
「で?悲観して恨んで壊して、それで満足か?てめぇの顔なんか知らねぇ今の王族殺してお前は満足なのか」
「知らなくても、アークオランの血が絶えるならそれでいい。僕から全て奪ったように、奴らから全て奪ったら僕はそれで満足だよ」
後は朴を僕と同じ所まで堕として一緒に連れて行く、と言われカッと頭に血が上る。
「スナオは俺の番だ!」
「アークオランに味方する子の願いは聞いてあげられないな」
ひゅ、と頬を横切る不可視の刃をほとんど勘で避けて地面を蹴った。パルティエータの強みは素早さだ。瞬時に詰めた間合いは、変わらず微笑みを浮かべた琴音の腕の一振りで再び距離が開く。咄嗟に避けなければ地面から突き出す鋭く尖った岩に貫かれる所だった。
「隊長!無謀な事しないでください!」
追いついたハーロットがパルティエータを狙う炎を弾く。しかし琴音との実力差がありすぎて弾けたのはほんの数センチだ。ただ琴音も朴と同じく魔力が高い分物理には弱い筈。懐に飛び込む事さえ出来ればダメージが与えられるのに、そもそも近寄る事すら出来ない。しかも琴音と戦いながら周りのモンスターにも注意を払わないといけないのがきつい。
騎士である以上こういった乱戦は初めてではなく、特に影の仕事は時として多勢に無勢という圧倒的劣勢に立たされることがある。しかし何とか生き残ってここまで来た実力は伊達ではない。伊達ではないのだけれど。
また襲ってきた不可視の刃の気配を察して飛び退く。
(人魚の涙はある。一度なら捨て身で突っ込んでもいけるか?)
「隊長、バカな真似はやめてくださいね」
「ちょっと心読むのやめて~」
「スナオ様に泣かれたいんですか?」
泣かれるのは嫌だ。ベッドの上ならいくらでも泣いて欲しいけど。
「生きて帰るんです。だから馬鹿な事考えないでください」
全然表情の変わらない琴音を見据えながら強く言われてため息をつく。相手は初代神子。瘴気に堕ちて、もう浄化は使えないとはいえその強大な魔力は健在。
対する自分達は魔力が低くて琴音の足をその場から動かす事すら出来ずにいる。
「さて、どうやってお帰り頂いたらいいのかしらね」
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