【本編完結】農民と浄化の神子を並べてはいけない

ナナメ(新作についてお知らせ)

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第三章 神子

若草の生える丘

 ◇

体を覆っていたドロドロとした重苦しい靄が消え、冷えていた体に熱が回り始める。あちらこちらから上がる呻き声を聞きながらディカイアスもまた小さく呻いて目を開けた。そして一瞬きつく目を閉じたのは目の前の光景が信じられず、夢を見ているかと思ったからだ。しかし再び開けた目には先ほどと同じ光景が広がっている。

「…どういう…事だ」

体を起こすためについた手の平の下で草が折れさくりと音を立てた。青々としたそれは雷雨が酷い死都ナスティールには生えなかった若草だ。それが丘一面に広がり、見上げた空には雲一つなくキラキラと光る粒が惜しみなく大地に降り注いでいる。同じように呆然とした仲間の騎士達が体を起こす中、ふと

「スナオ…?」

最愛のつがいの名を呼んだ。陽光とは違うキラキラと降り注ぐ光の粒からすなおの魔力を感じたからである。同じように何かを感じたようで、丘の下から駆けて来てディカイアスを見つけるなり詰め寄ってくるローゼンの鎧についた傷はそのままだけれど、その下にある筈の創傷はないと知っている。ディカイアスも己の体についていた筈の傷がない事に気付いていたからだ。

「団長!」

近くにいたパルティエータも同じように駆けて来て

「スナオの居場所は!?」

待ちきれないようにディカイアスの腕を持って訊く。3人近くにいる時はディカイアスの指輪しか反応しないからである。ディカイアスもまた言いようのない不安を抱え性急に指輪を発動させて指し示す方向へ向かう途中、上空から降り注ぐ光は徐々に薄くなって、番達が朴を見つけたと同時に消えた。

朴は若草がそよそよと揺れる中、小さな白い花に囲まれていつかと同じように胎児のように丸まっている。その側に転がっている神剣にはべったりと血がついていて、ローゼンが慌てて抱き起した体は胸元が真っ赤に染まり血の気を失った唇からは一筋の血が流れた跡があった。力なく揺れる腕は冷たくまるで陶器の人形のように白い。
誰の目から見ても、もうそこに生は一つも見い出せない。

「嘘…でしょ、スナオ…!」

パルティエータが握った手の平は氷のように冷たくて、

「スナオ様…!起きてください…!」

ローゼンが触れた頬からは渇いてこびりついた泥がざらりと落ちた。

「スナオ…」

ディカイアスの呼びかけに答える筈の唇は血に濡れたまま、微かに微笑んでいた。しかし答える声はない。
おずおずと寄って来た他の騎士達の中には現状を察して泣き崩れる者もいる。胸に拳を当てて騎士の礼を取る者も、ただ茫然とする者も。
近寄って来たレイアゼシカもまた静かに最上級の礼を取った___その瞬間。

「だから農民と神子を並べたらダメだって言ってるでしょうがーーーーーッ!!!」


 ◇


目が覚めたらそこはまたあの泉だった。
透明度の高い泉のど真ん中に浮く俺。泉の中からは緑やら黄色やらキラキラ光る球体が浮かび上がっては夜空に消えていく。
んー、今度こそ死んだ?死んだよな…。だって神聖魔法の代償は神子の命だったんだし。ホントこの世界の神様酷すぎるよ。俺無神論者だったけど漠然と神様的な何かはいるかもなー、くらいには信じてたのにこんなに酷い神様なら二度と信じないよ。あ、俺死んだんだったわ。信じるも何ももう生きてないから関係ないじゃん。

「俺頑張ったと思うんだけど…この仕打ちはあんまりじゃないかなぁ…」

「俺もそう思うわ~」

「僕もだな」

だよね~…………んん!!?
知ってる声がした!と慌ててザバリと身を起こすと、泉には俺の他に二人ぷかぷかと浮かんでて。一人は朝陽だけど、もう一人は…

「もしかしてパーピュア?」

線のほっそりした黒髪の少年がムッスリしたまま頷く。転生前のパーピュアは病弱だったって言ってたからもしかして、と思ったら本当にパーピュアだったらしい。なんてこった…薄幸の美少年じゃん…。でも線は細いけどパーピュアだからか、それともパーピュア自身が転生前に覚えてる最後の姿なのか、今見た感じでは健康そうだ。ちょっと吊り目がちな奥二重の瞳と小ぶりな鼻、薄い唇はほんのり赤い。う~ん、これはこれでレイアゼシカも好きそう…いや知らんけど。
と、言うか!!

「二人共何でここに!?もしかして俺、何かに巻き込んじゃった!?」

「それが何が何だかさっぱりわからんくてな~。でもそう言えば、一番初めにここ来た気がするわ」

「僕も良く覚えていないが…ここは知ってる気がする」

えぇ!?もしかして俺が死ぬと自動的に異世界転移とか転生した人も死ぬようになってたって事!?嘘でしょ、そんな話聞いてないよ!俺レイアゼシカに殺されちゃうじゃん!!あ、俺死んだんだったわ。

「え、な、ど、どうして…!あ、なんかここ声がしてたよな!?その声が神様だって信じて二人は戻れるようにお願いするから…!!ちょっと呼んでみる!」

「その必要はないみたいだぜ?」

俺の慌てっぷりに爆笑してた朝陽が泉の奥を見て言う。つられたように俺もパーピュアも視線を向けたその先に…彼、なのか彼女なのか…その人はいた。

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