猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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リリアーナ編

84.不安定な心

「思った通り、あなたの綺麗なストロベリーブロンドの髪には深緑色が良く似合いますね。素敵ですよ」

ふわりと天使の微笑みを浮かべたラファエロは、扉を開けるなりそう言って感嘆の溜息を漏らした。

「まあ………お上手ですわね」

ドレスの色味に似た、エメラルド色の瞳に見つめられ、リリアーナは頬を染めながらも嬉しそうに微笑み返す。

「………やはり、名残惜しいですね」

ラファエロの微笑みがふと寂しげに翳る。

「殿下。物事には順序というものがございますよ。それを努々ゆめゆめお忘れなきよう」

にこりと微笑むマリカの笑みが凄味を帯びて、リリアーナですらも一瞬ぎょっとしてしまうが、ラファエロは全く意に介していない様子だった。

「……わざわざ忠告されずとも、解っていますよ。出来る事ならこのまま王宮に留まって頂きたいですが仕方ありませんね。屋敷までお送りしましょう」

心底残念そうに微笑むと、ラファエロは徐にリリアーナの手を取った。

「遣いを出していただければ、家から迎えが参りますので、殿下のお手を煩わせなくても………」
「リリアーナ嬢、呼び方が間違っていますよ?」

つい『殿下』と口にした途端にラファエロの笑みが深くなり、リリアーナの言葉に被せるように彼が口を開いた。

「それに、遣いをやるよりもお送りした方が早いですから。時間には限りがありますから、有効に使わないといけません」

今度は何か含みのある笑いを浮かべ、リリアーナを扉の方へと導いた。

「それでもわざわざラファエロ様に送って頂かなくても………」
「私がそうして差し上げたいのです。それに、グロッシ侯爵にも用事がありますからね」

『時間を有効に使う』とはそういう意味だったのか、とリリアーナは納得しながら、父に会うついでに送ってくれるのだという事実が寂しく、同時に切なく感じる。

ラファエロの囁く言葉は酷く甘美で心地よく、マリカの意見も相俟ってどんどん期待だけが膨らんでいく。
だからこそ、彼のふとした言動に動揺してしまう。
ジュストには感じなかった不安定な感情が、容赦なくリリアーナを揺さぶる。
ラファエロが本当に自分の事を特別な存在だと想ってくれていたらどんなに幸せだろう。
だが、その核心に触れてしまったら最後、彼との関係が壊れてしまいそうで、言葉に出来ない。
怖いものなど無かったはずなのに、ここ数日で自分は酷く臆病になってしまったようだとリリアーナは思った。

ラファエロに触れる己の手が、熱を孕むのを感じながら、リリアーナは静かに目を閉じる。
そんな二人の様子をマリカが微笑みながら見送るのだった。
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