呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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11.突然の来訪者

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アンネリーゼが倒れてから一週間が経った。
あれ以降、よく眠れない日はあるものの、不思議と悪夢を見る事は無かった。

「すっかり顔色も良くなられて、本当に良かったです」
「ありがとう。ニーナのお陰だわ」

ふわりと微笑むと、ニーナも嬉しそうな表情を浮かべた。
あの日以来、ジークヴァルトと顔を合わせることはなかったが、その代わりにニーナがあれこれと世話を焼いてくれた。

「今日は少し、お庭を歩いてみませんか?」

朝の身支度を済ませたアンネリーゼに、ニーナが思いがけない提案をしてくれた。

「旦那様から許可は頂いてますし、少し外の風に当たれば気分転換になりますよ」
「そうね。この部屋から見る景色も素敵だけれど、お許しを頂いているのなら、せっかくの機会ですし、お庭を見てみようかしら」

アンネリーゼの言葉に、ニーナは大きく頷いた。



クラルヴァイン辺境伯の居城は、城というよりは領主の館と言ったほうが適切な、こぢんまりとした造りだった。
城内の装飾品も殆どなく、こざっぱりと整えられていた。
案内された庭も同様で、整然としていて無駄はない。殺風景というのとはまた違う、すっきりとした庭をアンネリーゼはゆっくりと見て回った。

「緑に、華やかなシャクヤクペオーニエの花が映えて、とても素敵だわ」
「そう言って頂けると、庭師も喜びますわ」

アンネリーゼに日傘を差出しながら、ニーナが微笑んだ、その時だった。

俄に門の方から大声が響いてきた。

「クラルヴァイン辺境伯殿にお会いしたい!」

途端にニーナの顔が、厳しいものに変わったように、アンネリーゼは思った。

「………アンネリーゼ様、お客様がいらっしゃったようなので、そろそろお部屋に戻りましょうか」

先程までの明るい声とは違う、息を潜めたような声で、ニーナが囁いた。

「どちらの使いの方です?先触れもなく訪問するとは、些か失礼ではありませんか?」
「私はノイマン伯爵の使いだ!火急の用件なのだ!いらっしゃるのであればお目通り願いたい」

勝手に押しかけておきながら、不遜な物言いだとアンネリーゼは思った。

「火急の要件とは?」
「それは辺境伯殿に直接話す」

アンネリーゼの位置からは、高い生け垣に遮られて、話をしている人物の姿は見えないが、二人は言い争っているようだった。

「ここは、クラルヴァイン辺境伯の居城です。勝手は許されません」
「私はノイマン伯爵の使者だぞ?!」
「………ノイマン伯爵は、そんなにご立派な方なのかしら………?」
「さあ………詳しいことは存じ上げませんが………」

聞こえてきた使者の言葉に、アンネリーゼは僅かに眉を顰めると、呟いた。
全く関係のない事なのに、何故かふつふつと怒りが込み上げてくるのをアンネリーゼは感じた。
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