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23.決別(SIDE:ジークヴァルト)
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ダミアンの報告を受けて、アンネリーゼをどうするのが正解なのか、ジークヴァルトは大いに悩んだ。
何故、ノイマン伯爵が今更婚約破棄を言い渡したアンネリーゼを密かに付け狙っているのかは分からずじまいとなってしまったが、彼女の父であるモルゲンシュテルン侯爵がノイマン伯爵の所業に腹を立て、彼をアンネリーゼに近づけないようにしていると聞いて、安心はした。
だが、まだノイマン伯爵の真意についてや、アンネリーゼが夢で見たと言っていた、殺害されたと見られる青年や、赤い目の男についても分からずじまいのままで、本当に彼女を親元に返すのが正解なのか、それともまだ今は彼女を手元で守るべきなのか。
「本当は、俺が関わるべきではなかったんだろうな」
小さく溜息をつくと、ジークヴァルトはアンネリーゼを想いながらそう呟いた。
いくら同じ貴族とはいえ、所詮、彼女と自分では住む世界が違いすぎる。
自分が想いを伝えれば、彼女を困らせるだけだ。
ジークヴァルトは決心したように、アンネリーゼの部屋へと向かった。
そして、いつもどおりの無表情を貫きながら、事実を伝えると、アンネリーゼは悲しそうな顔をして俯いた。
彼女を安心させようとすればするほど、彼女の顔は曇っていき………遂に、泣き出してしまった。
泣かせたい訳ではないのに。
アンネリーゼには笑っていて欲しいのに。
ジークヴァルトは何もかもがうまく行かずに苛立っていた。
泣き出したアンネリーゼを慰めるために、アンネリーゼの細い肩を抱きしめると、アンネリーゼの感情が切なく揺れ動くのがはっきりと分かった。
アンネリーゼはおそらくクラルヴァイン辺境伯領での生活に慣れ、記憶のない状態で新しい場所への移動に恐怖心を抱いているのだろう。
ジークヴァルトは、もう一つ決心していたことを実行すべくアンネリーゼに語りかけ始めた。
「………あなたと出会えたのは、本当に偶然でした。でも、あなたと過ごす時間は………あなたを想う時間は、とても温かくて優しい………、俺を『ヒト』に引き戻してくれるような、かけがえのない時間でした」
「クラル、ヴァイン辺境伯、様………?」
アンネリーゼは涙に濡れた双眸でジークヴァルトを見つめる。
「………しかし、あなたと俺とでは、所詮生きていく世界が違うのです、アンネリーゼ嬢………」
まるで血を吐き出すような思いで、ジークヴァルトはそう告げた。
「………クラルヴァイン辺境伯領で過ごした間の出来事は、全てあなたが見ていた夢です。貴方は、長い夢を見ていただけ………。俺にを会ったことなどないし、ここで保護されていた間は一度も目を覚まさなかった………」
暗示をかけるように、ジークヴァルトはゆっくりとアンネリーゼに語りかける。
それは、忘却の魔法。
次に彼女が目を覚ました時には、クラルヴァイン辺境伯領で過ごした日々は夢の中での出来事として記憶され、実際の思い出としては忘れ去られる。
そうすれば、彼女が強い不安を感じることは無くなるだろう。
「………クラ……ヴァイン………、さま………?」
これで、いいのだ。
ジークヴァルトは、いつぶりか分からない、綺麗な笑顔をアンネリーゼへと向けたのだった。
何故、ノイマン伯爵が今更婚約破棄を言い渡したアンネリーゼを密かに付け狙っているのかは分からずじまいとなってしまったが、彼女の父であるモルゲンシュテルン侯爵がノイマン伯爵の所業に腹を立て、彼をアンネリーゼに近づけないようにしていると聞いて、安心はした。
だが、まだノイマン伯爵の真意についてや、アンネリーゼが夢で見たと言っていた、殺害されたと見られる青年や、赤い目の男についても分からずじまいのままで、本当に彼女を親元に返すのが正解なのか、それともまだ今は彼女を手元で守るべきなのか。
「本当は、俺が関わるべきではなかったんだろうな」
小さく溜息をつくと、ジークヴァルトはアンネリーゼを想いながらそう呟いた。
いくら同じ貴族とはいえ、所詮、彼女と自分では住む世界が違いすぎる。
自分が想いを伝えれば、彼女を困らせるだけだ。
ジークヴァルトは決心したように、アンネリーゼの部屋へと向かった。
そして、いつもどおりの無表情を貫きながら、事実を伝えると、アンネリーゼは悲しそうな顔をして俯いた。
彼女を安心させようとすればするほど、彼女の顔は曇っていき………遂に、泣き出してしまった。
泣かせたい訳ではないのに。
アンネリーゼには笑っていて欲しいのに。
ジークヴァルトは何もかもがうまく行かずに苛立っていた。
泣き出したアンネリーゼを慰めるために、アンネリーゼの細い肩を抱きしめると、アンネリーゼの感情が切なく揺れ動くのがはっきりと分かった。
アンネリーゼはおそらくクラルヴァイン辺境伯領での生活に慣れ、記憶のない状態で新しい場所への移動に恐怖心を抱いているのだろう。
ジークヴァルトは、もう一つ決心していたことを実行すべくアンネリーゼに語りかけ始めた。
「………あなたと出会えたのは、本当に偶然でした。でも、あなたと過ごす時間は………あなたを想う時間は、とても温かくて優しい………、俺を『ヒト』に引き戻してくれるような、かけがえのない時間でした」
「クラル、ヴァイン辺境伯、様………?」
アンネリーゼは涙に濡れた双眸でジークヴァルトを見つめる。
「………しかし、あなたと俺とでは、所詮生きていく世界が違うのです、アンネリーゼ嬢………」
まるで血を吐き出すような思いで、ジークヴァルトはそう告げた。
「………クラルヴァイン辺境伯領で過ごした間の出来事は、全てあなたが見ていた夢です。貴方は、長い夢を見ていただけ………。俺にを会ったことなどないし、ここで保護されていた間は一度も目を覚まさなかった………」
暗示をかけるように、ジークヴァルトはゆっくりとアンネリーゼに語りかける。
それは、忘却の魔法。
次に彼女が目を覚ました時には、クラルヴァイン辺境伯領で過ごした日々は夢の中での出来事として記憶され、実際の思い出としては忘れ去られる。
そうすれば、彼女が強い不安を感じることは無くなるだろう。
「………クラ……ヴァイン………、さま………?」
これで、いいのだ。
ジークヴァルトは、いつぶりか分からない、綺麗な笑顔をアンネリーゼへと向けたのだった。
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