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25.父との再会
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ミアの質問に対する答えが、一つも浮かんでこないという事実に、アンネリーゼは俯くしかなかった。
そんなアンネリーゼを見たミアの方が、慌てた様子で謝罪の言葉を口にした。
「も、申し訳ございません………。お嬢様を責めているわけでは、ないのです。ただ………」
困ったように視線を彷徨わせるミアに、アンネリーゼはふるふると首を横に振って見せた。
「謝らなければならないのは、わたくしのほうだわ。あなたの質問に対する答えが、一つも浮かんでこないのですもの。………それに、四年もの間仕えてくれたあなたを、忘れてしまうなんて………」
「いいえ!お嬢様が謝る必要は全くありませんもの。記憶を無くしたのも、不幸な事故のせいだと………」
まるで言い訳をするかのように、ミアがそう呟いた、丁度その時。
大きな音がして、部屋の扉が開け放たれると、上品な雰囲気を纏った初老の男性が、姿を現した。
「アンネリーゼ!」
色の薄いブロンドに、アンネリーゼとよく似た深い蒼色の瞳の、美しい顔立ちの男性はつかつかとアンネリーゼへと近寄ると、今にも泣き出しそうな表情で、アンネリーゼを見つめた。
「………本当に、無事で………良かった。もう生きたお前には、二度と会えないかとっ…………」
喉の奥から絞り出すような、苦しそうな声を出しながら、男性がアンネリーゼの枕元へと立つと、アンネリーゼは男性を見つめた。
そんなアンネリーゼに向かって、男性がぎこち無い態度で自己紹介を始めた。
「………私は、モルゲンシュテルン侯爵、ヴィクトル・モルゲンシュテルン………お前の父親だ」
優しい、けれども悲しそうな笑みを浮かべながら、モルゲンシュテルン侯爵は微笑んだ。
「………お、父様、なのですね…………?」
恐る恐る、アンネリーゼはお父様、という言葉を口に出してみる。
だが、父親だと名乗り出られても、顔も、名前も思い出せない。それ故、全く親子の情がわいてこない事に、アンネリーゼは困惑を隠せなかった。
「………無理は、しなくていい。寧ろ、お前にとっては失った記憶を思い出す方が辛いやもしれん。………私には、大切なお前が無事に戻ってきてくれただけで、充分だ。………今は、ゆっくりと体を休めることだけを、考えるがいい」
威厳に満ちたモルゲンシュテルン侯爵の口から紡がれる言葉は酷く優しくて、彼がアンネリーゼを心から思っていることが伺えた。
「わたくし………」
心遣いに感謝しながらも、やはり申し訳ない気持ちで胸の内が支配されていくのをアンネリーゼは感じたのだった。
そんなアンネリーゼを見たミアの方が、慌てた様子で謝罪の言葉を口にした。
「も、申し訳ございません………。お嬢様を責めているわけでは、ないのです。ただ………」
困ったように視線を彷徨わせるミアに、アンネリーゼはふるふると首を横に振って見せた。
「謝らなければならないのは、わたくしのほうだわ。あなたの質問に対する答えが、一つも浮かんでこないのですもの。………それに、四年もの間仕えてくれたあなたを、忘れてしまうなんて………」
「いいえ!お嬢様が謝る必要は全くありませんもの。記憶を無くしたのも、不幸な事故のせいだと………」
まるで言い訳をするかのように、ミアがそう呟いた、丁度その時。
大きな音がして、部屋の扉が開け放たれると、上品な雰囲気を纏った初老の男性が、姿を現した。
「アンネリーゼ!」
色の薄いブロンドに、アンネリーゼとよく似た深い蒼色の瞳の、美しい顔立ちの男性はつかつかとアンネリーゼへと近寄ると、今にも泣き出しそうな表情で、アンネリーゼを見つめた。
「………本当に、無事で………良かった。もう生きたお前には、二度と会えないかとっ…………」
喉の奥から絞り出すような、苦しそうな声を出しながら、男性がアンネリーゼの枕元へと立つと、アンネリーゼは男性を見つめた。
そんなアンネリーゼに向かって、男性がぎこち無い態度で自己紹介を始めた。
「………私は、モルゲンシュテルン侯爵、ヴィクトル・モルゲンシュテルン………お前の父親だ」
優しい、けれども悲しそうな笑みを浮かべながら、モルゲンシュテルン侯爵は微笑んだ。
「………お、父様、なのですね…………?」
恐る恐る、アンネリーゼはお父様、という言葉を口に出してみる。
だが、父親だと名乗り出られても、顔も、名前も思い出せない。それ故、全く親子の情がわいてこない事に、アンネリーゼは困惑を隠せなかった。
「………無理は、しなくていい。寧ろ、お前にとっては失った記憶を思い出す方が辛いやもしれん。………私には、大切なお前が無事に戻ってきてくれただけで、充分だ。………今は、ゆっくりと体を休めることだけを、考えるがいい」
威厳に満ちたモルゲンシュテルン侯爵の口から紡がれる言葉は酷く優しくて、彼がアンネリーゼを心から思っていることが伺えた。
「わたくし………」
心遣いに感謝しながらも、やはり申し訳ない気持ちで胸の内が支配されていくのをアンネリーゼは感じたのだった。
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