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35.クレーデル伯爵子息
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それからゲルハルトは、宰相から退席を促されるぎりぎりまでの時間を使い、まるでアンネリーゼの不安を取り除こうとするかのようにあれこれと話をしてくれた。
しかし、結局何の目的で呼び出されたのかがはっきりしない謁見だったとアンネリーゼは感じた。
「何故陛下はわたくしをお呼びになられたのかしら………。お父様に伝えていただくだけで、充分な内容だったと思うのですけれど」
「陛下には陛下のお考えがあるのだ。………それだけ、お前のことを気にかけて下さっているという事を知らしめる意図もあるのだろうがな」
モルゲンシュテルン侯爵は不思議そうに首を傾げる娘に向かって微笑んだ。
「そう、なのでしょうか………?」
確かにゲルハルトからは悪意は感じなかった。
しかし、わざわざ目立つように呼び出された事には何か別の理由がある良うな気がしてならなかった。
歩きながらあれこれ考えていると、前を歩いていたモルゲンシュテルン侯爵が突然、足を止めた事に気付き、アンネリーゼも足を止めた。
「マルクス殿………」
父の視線の先に、一人の青年の姿が見えた。
その青年の外見に、アンネリーゼは思わず呼吸を忘れる。
金髪に、榛色の瞳。
それは、アンネリーゼの亡き婚約者と同じ特徴だった。
「これはモルゲンシュテルン侯爵ではありませんか」
朗らかな声が響いたかと思うと、青年がこちらへと歩み寄ってきた。
「アンネリーゼ嬢もご一緒だったのですね。お久しぶりです」
青年はにこりとアンネリーゼに向かって微笑む。
「申し訳ございませんが、わたくし………」
「ああ!そういえば記憶を失くしていらっしゃるのでしたね。これは失礼致しました」
アンネリーゼが事情を説明して謝罪しようとすると、青年はまるでそれを遮るように声を上げた。
「私は、マルクス・クレーデル。クレーデル伯爵家の嫡子です。………あなたの亡き婚約者ルートヴィヒ・クレーデルの実兄、と言ってもあなたは覚えていないのでしょうが………」
「ルートヴィヒ様の、お兄様………?それは大変失礼を致しました」
道理で特徴が似ているはずだと納得しつつも、アンネリーゼはじっとマルクスを観察した。
穏やかに微笑みかけているのに、目は笑っていない。
優しい口調なのに、どこか棘のある言い回しも気にはなるが、亡くなった弟の婚約者が自分の事はおろか、弟の事さえも忘れているとなれば、多かれ少なかれ怒りを覚えるのは当然の事だ。
アンネリーゼは目を伏せると優雅な動作でマルクスに向かってカーテシーをした。
しかし、結局何の目的で呼び出されたのかがはっきりしない謁見だったとアンネリーゼは感じた。
「何故陛下はわたくしをお呼びになられたのかしら………。お父様に伝えていただくだけで、充分な内容だったと思うのですけれど」
「陛下には陛下のお考えがあるのだ。………それだけ、お前のことを気にかけて下さっているという事を知らしめる意図もあるのだろうがな」
モルゲンシュテルン侯爵は不思議そうに首を傾げる娘に向かって微笑んだ。
「そう、なのでしょうか………?」
確かにゲルハルトからは悪意は感じなかった。
しかし、わざわざ目立つように呼び出された事には何か別の理由がある良うな気がしてならなかった。
歩きながらあれこれ考えていると、前を歩いていたモルゲンシュテルン侯爵が突然、足を止めた事に気付き、アンネリーゼも足を止めた。
「マルクス殿………」
父の視線の先に、一人の青年の姿が見えた。
その青年の外見に、アンネリーゼは思わず呼吸を忘れる。
金髪に、榛色の瞳。
それは、アンネリーゼの亡き婚約者と同じ特徴だった。
「これはモルゲンシュテルン侯爵ではありませんか」
朗らかな声が響いたかと思うと、青年がこちらへと歩み寄ってきた。
「アンネリーゼ嬢もご一緒だったのですね。お久しぶりです」
青年はにこりとアンネリーゼに向かって微笑む。
「申し訳ございませんが、わたくし………」
「ああ!そういえば記憶を失くしていらっしゃるのでしたね。これは失礼致しました」
アンネリーゼが事情を説明して謝罪しようとすると、青年はまるでそれを遮るように声を上げた。
「私は、マルクス・クレーデル。クレーデル伯爵家の嫡子です。………あなたの亡き婚約者ルートヴィヒ・クレーデルの実兄、と言ってもあなたは覚えていないのでしょうが………」
「ルートヴィヒ様の、お兄様………?それは大変失礼を致しました」
道理で特徴が似ているはずだと納得しつつも、アンネリーゼはじっとマルクスを観察した。
穏やかに微笑みかけているのに、目は笑っていない。
優しい口調なのに、どこか棘のある言い回しも気にはなるが、亡くなった弟の婚約者が自分の事はおろか、弟の事さえも忘れているとなれば、多かれ少なかれ怒りを覚えるのは当然の事だ。
アンネリーゼは目を伏せると優雅な動作でマルクスに向かってカーテシーをした。
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