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74.水の中
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まるで泉の水が、生き物のように、自らの意思でアンネリーゼを取り込もうとしたかのようだった。
ドボンッ、と重苦しい音がすぐ耳元で聞こえる。
泉に落ちたのだと気がついた時には、既に体が沈み始めてきていた。
そして、気がつく。泉が、こんなにも深いわけがないということに。
「どうして…………?」
こぽこぽと空気が浮上する音と共に、呟いた言葉が周囲で反響する。
息は出来ないのに、苦しくない。
水の中なのにそうでないような、不思議な感覚だった。
恐る恐る目を開けると、アンネリーゼは一人水の中浮いていた。遥か遠くに見える水面から差し込む光が揺蕩い、その光が幾重もの筋となってアンネリーゼを照らしていた。
神秘的な光景に息を呑みながら、アンネリーゼはふと考える。
「わたくし、死んだのかしら…………」
水が触れる感覚は確かにあるのに、聖衣が濡れて身体に纏わりつくような不快感すらも感じない。
それに、息を吸い込んでも水が入り込んでくることはなく、まるでアンネリーゼの周囲を何かの膜が覆っているようだった。
何がどうなっているのか、訳がわからないままアンネリーゼは周囲を見渡す。
どうやらアンネリーゼの身体は、ゆっくりと沈んでいるようだった。
水底の方は光が届かないせいか、闇がぽっかりと口を開けているように見える。
ここが死者の辿り着く場所だとしたら、自分はあの闇に囚われ、女神の辿り着くことが出来ないのだろうか。
ルートヴィヒを死に追いやり、巫女姫という立場にありながら邪念に心を支配された自分が受ける報いなのかもしれないとアンネリーゼは思った。
ルートヴィヒの事を思い出したのに、思い浮かぶのはジークの顔ばかり。………いや、それも違う。
ジークを通して、別の『誰か』を想う気持ちがアンネリーゼを支配する。
「地獄に墜ちた巫女姫だなんて………」
アンネリーゼが自嘲の笑みを浮かべた、その時だった。
『……………』
何かが、聞こえた気がした。
「誰か、いらっしゃるのですか?」
しかし、呼びかける声に応えはなかった。
その代わりに、足元に広がる無限の闇が、まるで霧がはれるように消えていき、その中央から眩い光が姿を現した。
「な………に………?」
光はゆっくりと浮上してきて、アンネリーゼの方に近付いてきて、彼女の目の前まで浮上すると、ぱあっと光を放出してアンネリーゼを包み込む。
温かい。
それは、春の陽射しのように穏やかだった。
懐かしいような、けれども恐ろしいような、奇妙な感覚がアンネリーゼの心を支配した。
ドボンッ、と重苦しい音がすぐ耳元で聞こえる。
泉に落ちたのだと気がついた時には、既に体が沈み始めてきていた。
そして、気がつく。泉が、こんなにも深いわけがないということに。
「どうして…………?」
こぽこぽと空気が浮上する音と共に、呟いた言葉が周囲で反響する。
息は出来ないのに、苦しくない。
水の中なのにそうでないような、不思議な感覚だった。
恐る恐る目を開けると、アンネリーゼは一人水の中浮いていた。遥か遠くに見える水面から差し込む光が揺蕩い、その光が幾重もの筋となってアンネリーゼを照らしていた。
神秘的な光景に息を呑みながら、アンネリーゼはふと考える。
「わたくし、死んだのかしら…………」
水が触れる感覚は確かにあるのに、聖衣が濡れて身体に纏わりつくような不快感すらも感じない。
それに、息を吸い込んでも水が入り込んでくることはなく、まるでアンネリーゼの周囲を何かの膜が覆っているようだった。
何がどうなっているのか、訳がわからないままアンネリーゼは周囲を見渡す。
どうやらアンネリーゼの身体は、ゆっくりと沈んでいるようだった。
水底の方は光が届かないせいか、闇がぽっかりと口を開けているように見える。
ここが死者の辿り着く場所だとしたら、自分はあの闇に囚われ、女神の辿り着くことが出来ないのだろうか。
ルートヴィヒを死に追いやり、巫女姫という立場にありながら邪念に心を支配された自分が受ける報いなのかもしれないとアンネリーゼは思った。
ルートヴィヒの事を思い出したのに、思い浮かぶのはジークの顔ばかり。………いや、それも違う。
ジークを通して、別の『誰か』を想う気持ちがアンネリーゼを支配する。
「地獄に墜ちた巫女姫だなんて………」
アンネリーゼが自嘲の笑みを浮かべた、その時だった。
『……………』
何かが、聞こえた気がした。
「誰か、いらっしゃるのですか?」
しかし、呼びかける声に応えはなかった。
その代わりに、足元に広がる無限の闇が、まるで霧がはれるように消えていき、その中央から眩い光が姿を現した。
「な………に………?」
光はゆっくりと浮上してきて、アンネリーゼの方に近付いてきて、彼女の目の前まで浮上すると、ぱあっと光を放出してアンネリーゼを包み込む。
温かい。
それは、春の陽射しのように穏やかだった。
懐かしいような、けれども恐ろしいような、奇妙な感覚がアンネリーゼの心を支配した。
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