呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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87.潔斎の間(SIDE:ジークヴァルト)

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ギィ、と微かに軋む音を立てて、重厚な扉が開け放たれる。
しっとりとした、清白で澄み切った空気が真っ白な空間を満たしていた。

かつん、とジークヴァルトのブーツの踵が硬質な音を立てると、その音は幾重にも重なって響いていくようだった。

「巫女姫…………様…………?」

先程溢れ出していた眩い光は、部屋の中央部に位置する清めの為の泉のあたりで揺蕩っているように見えた。

部屋の中に、アンネリーゼの姿は見当たらなかった。
彼女は、この部屋から出てはいない。ジークヴァルト自身が、何人も通さぬように扉を守っていたのだから、それは間違いようのない事実だった。
そして、この部屋から出る手段はジークヴァルトが守っていた扉ただ一つ。
ということは。
自然と、ジークヴァルトの歩みは早くなっていった。

「アンネリーゼ!!」

今はクラルヴァイン辺境伯ジークヴァルトではなく『護衛騎士のジーク』であることも、巫女姫、と呼ぶことさえも忘れ去って、ジークヴァルトは我を忘れたかのように叫んだ。

駆け寄った泉の中で、長いシルバーブロンドの髪を揺らめかせながらアンネリーゼが浮いていた。
いや、浮いていたというのは違うのかもしれない。
その様は、まるで泉の中に閉じ込められたまま眠っているかのようだった。
そして、そのアンネリーゼを守るかのように、金色の優しい光がアンネリーゼの華奢な体を包むかのように煌めいている。

「大丈夫か?!」

ジークヴァルトは服が濡れるのも気にせず、泉の中へと入っていく。
幸いな事に、背の高いジークヴァルトが入ると、膝の少し上くらいまでの深さしかなかった。

ここは、巫女姫が禊を行うための神聖な場所だが、巫女姫の命に関わる事態なのだから、護衛騎士が立ち入っても後で説明すれば致し方ないとの判断が下されるだろう。

躊躇う事なく、アンネリーゼの体を横抱きで抱え上げると、泉からあがる。
不思議な事に、アンネリーゼの体も衣服も、しっかりと泉に浸かっていたにも関わらず、

「…………無事、なのか…………?」

ジークヴァルトは己の腕の中に収まったアンネリーゼをじっと見つめた。
どれくらいの間沈んでいたのかは分からないが、泉の中から掬い上げた直後から、アンネリーゼは本当に眠っているだけのように、規則正しい呼吸を繰り返していた。

「これは、あの光の…………女神の力…………?」

ジークヴァルトが小さく呟くと、窓など無いはずの室内を、穏やかな風が駆け抜けた気がした。


※※※※※※※

ジークヴァルト視点が長くなり、申し訳ありません。
次話より漸くアンネリーゼ視点に戻ります。
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