呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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104.目覚め

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温かくて力強い光は、大きな掌になってアンネリーゼの手を握りしめてくれていた。
父の手とも、ルートヴィヒのそれとも違うその手が与えてくれる安らぎが嬉しくて、アンネリーゼは懸命にその手に縋る。

徐々に体が浮上するような感覚と共に、意識が覚醒してゆく。
アンネリーゼが身じろぎをすると、一層強く手が握り締められた。
ゆっくりと、瞼を持ち上げると真っ先に金色の瞳が目に入った。

「あ………わたくし…………?」
「アンネリーゼ…………意識がっ……………?!」

苦しそうに歪められていた、この世のものとは思えない程の美貌を誇る顔が、驚きの表情へと変化する。
アンネリーゼはまだぼんやりとした頭で記憶を辿っていく。

「具合は?気持ち悪い所や、異変は………?」
「ええと………今のところは、特には…………」

アンネリーゼは躊躇いがちに答えるとぐるっと部屋の中を見渡す。
そしてミアの姿が見えない事を確認し、あれが悪夢でなかった事を悟ると、静かに目を閉じた。

「…………彼女は………ミアは…………」
「それは、あなたが知らなくて良い事です。あの娘は、巫女姫であるあなたを害した。その事実だけでも万死に値します」

彼は、それ以上を語ろうとしなかった。
彼の言葉から察するに、ミアの生死に関わらず、ミアがアンネリーゼの前に姿を見せることはないのだろう。
何故彼女があんな行動に出たのかは分からなかったが、彼女の中に自分を憎む感情があったというのが悲しかった。
小さく溜息をつくと、アンネリーゼは上半身を起こそうとする。すると、すかさず彼が手を添えて背中にクッションを当ててくれた。

「ありがとうございます。あの…………」
「はい、何か?」

彼は、
アンネリーゼは何と切り出そうかと考えを巡らせ、迷いながらも言葉を紡ぎ出した。

「…………クラルヴァイン辺境伯様が、何故ここにいらっしゃるのでしょうか?」
「え………?」

上目遣いで尋ねるアンネリーゼに、ジークヴァルトの金色の双眸はこの上なく大きく見開かれた。

「ええと…………、あの…………っ、あのですね………。少し、確認を…………っ」

絶世の美貌が、慌てて窓に映る自分の姿を確認し、面白いほどに取り乱す様を、アンネリーゼは呆然と見つめる。

「あの、わたくしは別にクラルヴァイン辺境伯様を責めている訳ではないのです。ただ、不思議で………」

ジークヴァルトの慌てぶりに戸惑ったアンネリーゼの言葉に、ジークヴァルトはふと動きを止めて、改めて瞠目した。

「アンネリーゼ………、記憶が…………っ?」
「ええと………記憶は以前潔斎の間での禊の際に戻ったのですが………」

ジークヴァルトは混乱した。
戻った記憶は、元々失っていた記憶だけで、ジークヴァルト自分に関する記憶は封じられたままのはずだ。
動揺のあまり、途中で変身魔法が解けていたことに気が付かなかったのは自分の失態だが、何故アンネリーゼに施した忘却魔法まで解けてしまったのだろうか。
答えは簡単だった。解毒の魔法により、アンネリーゼに施された忘却魔法が解けてしまったのだ。

「このっ…………クソッ!!全部あの女のせいで…………!!」

恐ろしい程乱暴な言葉で悪態をついたかと思うと、ジークヴァルトは右手で顔を覆い、天を仰いだ。
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