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115.魔女の影

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「これが、使われた『魔女の秘薬ヘクセン・エリクサー』です。やはり見たところですと使われた量は、致死量の半分。………すぐに死に至ることはありませんが、魔力が封じられ、それを取り戻すことが出来なければ命が危険に晒される量でした」

本来の姿のままで、クルツ聖殿の最高神官の許を訪れたジークヴァルトは、アンネリーゼを自分の隣に座らせると、神官の前に、アンネリーゼの体内から取り出したものを魔力で固めて結晶化させた毒の塊を転がした。
それは一見すると紅玉にも見えるが、明らかに異質な禍々しさを纏っており、血よりも紅く、濃い色をしていた。

「………これを作れる魔女は、現在のところは唯一人…………」

年老いた神官が、じっと魔女の秘薬ヘクセン・エリクサーを見つめながら、呟いた。

「…………禍月の、魔女か」

ジークヴァルトの表情が、はっきりと歪むのをアンネリーゼは見た。
禍月の魔女。
ジークヴァルトに呪いを掛けた張本人の名前が、何故ここで出てくるのだろう。

「………裏であの女が糸を引いている可能性は、充分有り得るでしょう。それを突き止めるためには、早急にヴァルツァーへ帰還する必要があります」

ジークヴァルトは神官の様子を観察するように見つめた。

「………クルツでの儀式は既に恙無く終わっておりますから、帰国されることに関しましては、クルツ聖殿としては、異議はございません。………ですが、ヴァルツァーに帰国した後に、また巫女姫様がお命を狙われる心配は、ないのですか?」

渋い顔をした神官は、ちらりとアンネリーゼの方を見た。
確かに、今回はミアを抑え、魔力で毒を取り除くることで、被害を最小限に食い止めることが出来た。

だが、相手は長期戦を覚悟で、モルゲンシュテルン侯爵家に潜入してまでアンネリーゼを害そうとしてきたくらいだから、確かにヴァルツァーに帰国したからと言って、見の安全が保証されるわけではない。
むしろ、より危険にさらされる可能性もあるだろう。
どこでどう『禍月の魔女』という人物が関わってくるのかも不明瞭となれば、誰を信じれば良いのか分からなくなりそうだ。
そう考えると、アンネリーゼは段々と不安になってきた。

「…………俺は、そういう時のために選ばれた護衛騎士なのではないですか?」

そんなアンネリーゼの気持ちを汲み取ったかのように、ジークヴァルトが金色の瞳を細め、見る者を圧倒するような、自信に満ち溢れた、艶やかな笑み浮かべた。
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