呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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153.平民への態度

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「ねえ、私に何か用?」

一定の距離を取ってフローラの後を追っていると、ふとフローラが足を止め、アンネリーゼ達の方を振り返った。

「気がついてないとでも思った?あんた達、ずうっと私の後ろをつけてきたでしょ?」

離れているにも関わらず、フローラの若草色の瞳が、どろりと濁っているのがはっきりと見えた。

「貴族のご令嬢がこんな路地裏に足を踏み入れるなんて危ないと思って、念の為についてきただけですよ。他意はありません」

丁寧な、けれども全く感情の籠もらない口調で、ジークヴァルトが説明する。

「あら、見ず知らずの私の心配をしてくれたの?」

くすっと小さく笑うと、フローラはコツコツと甲高い靴音を響かせて近寄ってきた。
アンネリーゼは再び込み上げてきた不安を宿した視線をジークヴァルトに向けると、ジークヴァルトはアンネリーゼに優しい眼差しを向けて頷き、それからフローラを見据えた。

「ええ。貴族のご令嬢はご存知ないかもしれませんがこの辺は物騒なんですよ」

無表情のまま、ジークヴァルトは近づいてくるフローラを観察しているようだった。

「あんたもそっちの娘も、平民?」

フローラも探るようにジークヴァルトとアンネリーゼを見ている。
その表情は、いつも強い悪意を向けてきたフローラとは少し違って見えた。
まるで小動物に鋭く長い牙を向ける毒蛇のように、舐めるような視線。
貴族令嬢とは思えないような乱暴な言葉遣い。
どこか意地の悪そうな所はあっても可愛らしいクラネルト男爵令嬢と同一人物とは思えなかった。

「そうですよ。俺達は婚約者で、お嬢様がこっちに来るのをたまたま見かけて心配してついてきただけですよ」

ジークヴァルトの口から、尤もらしい嘘が滑らかに紡ぎ出されるのを見ながらアンネリーゼは感心した。
恐らく、フローラに気が付かれた時の事を考えて、予め用意していたのだろう。
それくらいに、自然で違和感など覚える隙きのないような演技だった。

「随分と優しいのねぇ?………あぁ、何か見返りが欲しいとか?平民は卑しいって、本当ねぇ?」

フローラの顔に明確な侮蔑の色が浮かび上がるのを、アンネリーゼははっきりと見て取った。
いつもは、苛立ったような怒りと憎しみのような感情をぶつけてくるのに、今日は明らかに見下した態度なのは、今フローラの目の前にいるのは見ず知らずの平民の娘だと思っているからなのだろう。
平民を見下し、理不尽な態度を取る貴族はいくらでもいるが、アンネリーゼはどうしてもそれが許せなかった。
フローラに気が付かれないようにそっと溜息をついたのだった。
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