呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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155.闇魔法

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って………クラネルト男爵令嬢じゃなかったのか?」

紫色の瞳は、魔族の証。
それなのに何故その瞳をフローラが………仮にも女神に祈りを捧げる神聖な存在である巫女姫候補となった娘が持っているのか。
さすがのジークヴァルトも、大きく目を瞠った。

「間違いないです。ただ………いつもと雰囲気が違うように感じますが………」

アンネリーゼはなるべくゆっくりと呼吸をしながら、フローラの様子を観察する。
一体彼女の身に、何が起こったのだろう。
うっすらと不気味な笑みを浮かべた顔は確かにフローラのものなのに、まるで別人を見ているようだった。

「何をコソコソ話してるのか知らないけど、もう逃げられないわ。うふふふっ………こんな所までノコノコとついて来たお人好しなあんた達が悪いのよぉ?自分達で言ったじゃない………物騒な場所だって。おバカさんねぇ………!」

くすくすという笑い声が上がるのと共に、ざわざわと影が動く気配がした。
それと同時にフローラの背後から、暗い闇がぞ、ぞ、という気味の悪い音を立てながら、まるで意思のある触手のように這い寄ってくるのがはっきりと見えて、アンネリーゼは背筋が寒くなるのを感じた。
闇魔法の気配を纏ったそれは、緩やかに撓りながら、アンネリーゼ達を目掛けて伸びてきた。
悲鳴を上げそうになるのを何とか堪え、ニ歩、三歩と後退りをすると、ジークヴァルトが指先を動かし、防御壁を創り出す。
ぴん、と張り詰めた見えない壁がフローラとアンネリーゼたちを遮断した。

「………ねぇ。今、無詠唱で防御壁を張ったの?………あんた、何者………?」

フローラの眉が、勢いよく跳ね上がり、はっと息を呑んだのが分かった。
おそらくジークヴァルトが只者ではないことを悟ったのだろう。
狙いを定めたように、鋭い視線をぶつけて来た。

「………転移魔法を、使えるか?」

アンネリーゼのすぐ耳元で、ジークヴァルトが囁いた。

「は、はい」

慌てて返事をするが、緊張のためか喉がカラカラに乾いていてしまっていて上手く声が出せなかった。

「あなたの家に、陣を繋いでくれ。………早く!」

ジークヴァルトが珍しく声を荒げるのを聞いて、アンネリーゼは詠唱を始める。

「我、空を駆ける風の精霊の名を知る者。汝らの力を我に与えよ。………空間転移スパティウム・メタスタシス

アンネリーゼの金色に変化させた髪がふわりと揺れ、優しい風が吹き抜けた。

ぱりん、とジークヴァルトが張った防御壁が砕け散るのが見えたのと同時に、ジークヴァルトとアンネリーゼは風魔法を軸とした魔法陣の中へと吸い込まれていった。

「………逃げられるなんて…………」

割れた防御壁の前で、フローラの顔が歪むのを少し離れたところでダミアンがじっと見つめていたのだった。
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