呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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174.異変 ※残酷描写あり

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潔斎の間の扉に手を掛けたアンネリーゼは異変を感じ、怪訝そうに辺りを見回す。

「ジーク様………やはり、何かおかしいです」

奇妙な静寂。
厚い雲に覆われた空。
そして聖殿の中に漂っている筈の清廉な空気の重さ。
目に見えない、けれども肌で感じられる程の明らかな違和感。

アンネリーゼは恐る恐る扉に触れた手に、力を込めた。

「きゃあああっ………!」

あまりの光景に、アンネリーゼは悲鳴を上げた。
扉の先には、真っ白な空間が広がっているはずだった。
少なくとも昨日の夕方までは、清らかな水を湛えた、美しい部屋だったはずなのに。
………そこに広がっていたのは、神官たちの、無残に引き裂かれた遺体と、壁一面に飛び散った血痕だった。

「アンネリーゼ!」

ジークヴァルトは膝から崩れるアンネリーゼの体を抱き留めると、慌てて扉を閉めた。
数百年の永き時を生きてきたジークヴァルトですら混乱していた。
女神を祀る、神聖な場所で殺戮が行われ、聖域が汚された。
アリッサの時にすら起きなかった、前代未聞の大事件だ。

「ジ、ジーク様………」

アンネリーゼの細い体が、小刻みに震えていることに気が付き、ジークヴァルトは彼女の体をぎゅっと強く抱きしめる。
自分が動揺している場合ではないということは、分かっていた。

儀式直前に起きた事件。
穢された聖域。

このままでは儀式が行えなくなるということも気掛かりだが、最後に潔斎の間に入ったのがアンネリーゼだという事実はさらに都合が悪かった。
明らかに、アンネリーゼを陥れようという意図が見て取れる。

「巫女姫様!クラルヴァ……ジーク殿!」

その時、息を切らせたイェルクが二人の方へと駆け寄ってきた。

「申し訳ございません……。あの後急ぎ王城へ行っていて……先程戻ったところ、聖殿内の様子がおかしいことに気が付いたのですが……」

イェルクは心配そうに、ジークヴァルトの腕の中で震えるアンネリーゼを見、それからジークヴァルトを見た。

「……聖殿が、穢されたのですか?」

イェルクの澄み渡ったオリーブ色の瞳が、悲しげに揺れるのと同時に、彼の水と光の属性を持つ魔力が、湧き上がるように揺らいだ。
問いかけているが、おそらく彼はそれを確信していいて、怒りを感じているのだとジークヴァルトは思った。

「潔斎の間に、数人の神官の遺体があった。それを、アンネリーゼも見てしまった」

ジークヴァルトは事実だけを告げると、イェルクは大きく目を見開く。

「とにかく、巫女姫様は少し横になって休まれたほうがいいでしょう。一旦お部屋にお戻りください。私もこちらの部屋を確認した後、すぐに合流致します。………くれぐれも、巫女姫様のお側を離れないでください」

ジークヴァルトは、深い皺の刻まれたイェルクの顔を真っすぐに見据えた後、ゆっくりと頷いた。
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