207 / 230
207.幸せを祈る
しおりを挟む
「わたくしは…………そんなに褒め称えられるような人間ではありません」
自信なさげにアンネリーゼが俯くと、ダミアンは笑った。
「…………本当に、謙虚なのですね。そんなあなただからこそ、主は心を開いたのかもしれません。…………傷付き、心を閉ざして感情を殺してからの主は、人間の姿をした別の生き物のようでしたから………」
ジークヴァルトと魔女の戦う姿を見つめながら、ダミアンは呟く。
魔族の、しかもその頂点に限りなく近い地位にある者とは思えないような発言だった。
魔族なのに、人間よりもジークヴァルト・クラルヴァインという人を理解し、寄り添う存在なのだということがひしひしと伝わってくる。
「ダミアンさんは、ジーク様の事がとても好きなのですね」
「なっ…………?!」
アンネリーゼの言葉に、ダミアンは慌てたようだった。
恥ずかしそうに顔を背けながら、ほんのりとその頬を染めているように見えた。
「す、好き………というのは少し………いえ、かなり語弊があります。主と私は、言わば運命共同体のようなものです。………少しでも、主には幸せになって頂きたいという、私の願望のような気持ちです」
恥ずかしそうに、ダミアンは笑った。
その表情を見た途端、何故か再びアリッサの表情が思い浮かんだ。
「あなたには、私と同じ道を辿ってほしくないのよ、アンネリーゼ様…………。そんなことになれば、彼は壊れてしまうかもしれないから…………。彼は、私が求めた愛を返してくれることはなかったけれど、今もずっと一人で戦っている。彼の背負っているものは大きすぎるけれど…………アンネリーゼ様、あなたなら…………きっと……………」
同時にアリッサとかわしたそんな言葉が脳裏に蘇る。
傷付き、血塗れになりながら魔女と対峙するジークヴァルトを目で追いながら、アンネリーゼは不意に浮かんできたアリッサの言葉の意味を考えた。
わざわざ「求めた愛を返す事が無かった」と口にしたところをみると、もしかしたらアリッサも自分の気持ちに応えてくれなかったジークヴァルトの事を少しは恨んでいたかもしれないと思えた。
だがアリッサもダミアンと同じように、ジークヴァルトを大切に思うからこそ、心の底からジークヴァルトの幸せを願っているのだ。
それは、自分だって同じだ。
彼の苦しむ姿を見たくない。
傷ついて欲しくない。
生きる辛さではなく、生きる喜びを感じてほしい。
この世で一番愛しい人には、いつも幸せでいて欲しいから。
そんな気持ちに気がついた瞬間、アンネリーゼは先程までの卑屈な感情が、突然波が引くように消えていくのを感じた。
自信なさげにアンネリーゼが俯くと、ダミアンは笑った。
「…………本当に、謙虚なのですね。そんなあなただからこそ、主は心を開いたのかもしれません。…………傷付き、心を閉ざして感情を殺してからの主は、人間の姿をした別の生き物のようでしたから………」
ジークヴァルトと魔女の戦う姿を見つめながら、ダミアンは呟く。
魔族の、しかもその頂点に限りなく近い地位にある者とは思えないような発言だった。
魔族なのに、人間よりもジークヴァルト・クラルヴァインという人を理解し、寄り添う存在なのだということがひしひしと伝わってくる。
「ダミアンさんは、ジーク様の事がとても好きなのですね」
「なっ…………?!」
アンネリーゼの言葉に、ダミアンは慌てたようだった。
恥ずかしそうに顔を背けながら、ほんのりとその頬を染めているように見えた。
「す、好き………というのは少し………いえ、かなり語弊があります。主と私は、言わば運命共同体のようなものです。………少しでも、主には幸せになって頂きたいという、私の願望のような気持ちです」
恥ずかしそうに、ダミアンは笑った。
その表情を見た途端、何故か再びアリッサの表情が思い浮かんだ。
「あなたには、私と同じ道を辿ってほしくないのよ、アンネリーゼ様…………。そんなことになれば、彼は壊れてしまうかもしれないから…………。彼は、私が求めた愛を返してくれることはなかったけれど、今もずっと一人で戦っている。彼の背負っているものは大きすぎるけれど…………アンネリーゼ様、あなたなら…………きっと……………」
同時にアリッサとかわしたそんな言葉が脳裏に蘇る。
傷付き、血塗れになりながら魔女と対峙するジークヴァルトを目で追いながら、アンネリーゼは不意に浮かんできたアリッサの言葉の意味を考えた。
わざわざ「求めた愛を返す事が無かった」と口にしたところをみると、もしかしたらアリッサも自分の気持ちに応えてくれなかったジークヴァルトの事を少しは恨んでいたかもしれないと思えた。
だがアリッサもダミアンと同じように、ジークヴァルトを大切に思うからこそ、心の底からジークヴァルトの幸せを願っているのだ。
それは、自分だって同じだ。
彼の苦しむ姿を見たくない。
傷ついて欲しくない。
生きる辛さではなく、生きる喜びを感じてほしい。
この世で一番愛しい人には、いつも幸せでいて欲しいから。
そんな気持ちに気がついた瞬間、アンネリーゼは先程までの卑屈な感情が、突然波が引くように消えていくのを感じた。
21
あなたにおすすめの小説
『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』
しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。
どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。
しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、
「女は馬鹿なくらいがいい」
という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。
出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない――
そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、
さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。
王太子は無能さを露呈し、
第二王子は野心のために手段を選ばない。
そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。
ならば――
関わらないために、関わるしかない。
アヴェンタドールは王国を救うため、
政治の最前線に立つことを選ぶ。
だがそれは、権力を欲したからではない。
国を“賢く”して、
自分がいなくても回るようにするため。
有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、
ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、
静かな勝利だった。
---
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
旦那様は、転生後は王子様でした
編端みどり
恋愛
近所でも有名なおしどり夫婦だった私達は、死ぬ時まで一緒でした。生まれ変わっても一緒になろうなんて言ったけど、今世は貴族ですって。しかも、タチの悪い両親に王子の婚約者になれと言われました。なれなかったら替え玉と交換して捨てるって言われましたわ。
まだ12歳ですから、捨てられると生きていけません。泣く泣くお茶会に行ったら、王子様は元夫でした。
時折チートな行動をして暴走する元夫を嗜めながら、自身もチートな事に気が付かない公爵令嬢のドタバタした日常は、周りを巻き込んで大事になっていき……。
え?! わたくし破滅するの?!
しばらく不定期更新です。時間できたら毎日更新しますのでよろしくお願いします。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
氷雨そら
恋愛
本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。
「君が番だ! 間違いない」
(番とは……!)
今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。
本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。
小説家になろう様にも投稿しています。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
氷の公爵は、捨てられた私を離さない
空月そらら
恋愛
「魔力がないから不要だ」――長年尽くした王太子にそう告げられ、侯爵令嬢アリアは理不尽に婚約破棄された。
すべてを失い、社交界からも追放同然となった彼女を拾ったのは、「氷の公爵」と畏れられる辺境伯レオルド。
彼は戦の呪いに蝕まれ、常に激痛に苦しんでいたが、偶然触れたアリアにだけ痛みが和らぐことに気づく。
アリアには魔力とは違う、稀有な『浄化の力』が秘められていたのだ。
「君の力が、私には必要だ」
冷徹なはずの公爵は、アリアの価値を見抜き、傍に置くことを決める。
彼の元で力を発揮し、呪いを癒やしていくアリア。
レオルドはいつしか彼女に深く執着し、不器用に溺愛し始める。「お前を誰にも渡さない」と。
一方、アリアを捨てた王太子は聖女に振り回され、国を傾かせ、初めて自分が手放したものの大きさに気づき始める。
「アリア、戻ってきてくれ!」と見苦しく縋る元婚約者に、アリアは毅然と告げる。「もう遅いのです」と。
これは、捨てられた令嬢が、冷徹な公爵の唯一無二の存在となり、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転溺愛ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる