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206.ダミアンの気持ち
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剣を下ろすこともせずに、ジークヴァルトはアイコンタクトのみでダミアンと命令を下した。
「ダミアン、アンネリーゼを頼む」
「仰せのままに」
それ以上の言葉を交わす必要がないくらいに、ダミアンは己の役割をよく理解し、素早くアンネリーゼを抱きかえるようにして、その場から離す。
「ダミアンさん…………!」
「いくら魔力が復活したと言っても、無理は禁物です。それに万が一の時は…………、いえ………何でもありません」
ダミアンがその美しい顔に一瞬不安そうな表情を浮かべて、何かを誤魔化そうとしたことにアンネリーゼは気がついた。
「何を…………、あ…………っ?」
ダミアンを問いただそうとした瞬間、キィン、という甲高くて耳障りな金属音が辺りに響き渡った。
それは連続で、しかも凄まじい速度で聞こえてきて、アンネリーゼはそちらの方へと視線を走らせた。
「あなた、騎士なんでしょう………?得意の剣技でも何でも、一刻も早く私を止めないと、本当にあなたの大切な巫女姫様が血塗れの肉塊になってしまうわよ?」
「はっ!そんな挑発に乗るほど俺はガキじゃない。それに貴様こそ魔力で補正していてもやはり剣の扱いは滅茶苦茶だな?それじゃあ獲物は仕留められないぞ?」
流石に剣の腕には自信があるらしいジークヴァルトは莫迦にされてもそれを受け流して反撃するくらいの余裕があるようだった。
どちらかというと攻撃を繰り出すために剣を振り回しているというイメージだったが、ジークヴァルトの剣技はまるで舞を舞っているかのように優雅で、目が離せないほどに美しかった。
その姿を見つめながら、ダミアンが静かに囁いた。
「………主にとってあなたは本当に大切な存在なのです。私も主と永い時を共に過ごしてきましたが、あんなにも人間らしく振る舞う主を見たのは、何百年ぶりでしょうか」
ダミアンは嬉しそうに目を細めた。
「あなたのような人が、巫女姫で本当に良かったと、私は心からそう思います」
「そんな…………っ」
先程感じた強烈な劣等感が、再び思い出される。
巫女姫に相応しいのは、自分ではなくアリッサだ。
それは先程嫌というほどに思い知ったはずなのに、ダミアンに言われると何故、まるでアンネリーゼが自らなその期待を裏切ったかのように感じられて、じわじわとアンネリーゼの良心を苛んだ。
こんなにも心が痛むのだろう。
ほう、と切なげな溜息を零すアンネリーゼを心配そうに見つめる紫色の鋭い猛禽類のような彼の瞳がふっと細められた。
「ダミアン、アンネリーゼを頼む」
「仰せのままに」
それ以上の言葉を交わす必要がないくらいに、ダミアンは己の役割をよく理解し、素早くアンネリーゼを抱きかえるようにして、その場から離す。
「ダミアンさん…………!」
「いくら魔力が復活したと言っても、無理は禁物です。それに万が一の時は…………、いえ………何でもありません」
ダミアンがその美しい顔に一瞬不安そうな表情を浮かべて、何かを誤魔化そうとしたことにアンネリーゼは気がついた。
「何を…………、あ…………っ?」
ダミアンを問いただそうとした瞬間、キィン、という甲高くて耳障りな金属音が辺りに響き渡った。
それは連続で、しかも凄まじい速度で聞こえてきて、アンネリーゼはそちらの方へと視線を走らせた。
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流石に剣の腕には自信があるらしいジークヴァルトは莫迦にされてもそれを受け流して反撃するくらいの余裕があるようだった。
どちらかというと攻撃を繰り出すために剣を振り回しているというイメージだったが、ジークヴァルトの剣技はまるで舞を舞っているかのように優雅で、目が離せないほどに美しかった。
その姿を見つめながら、ダミアンが静かに囁いた。
「………主にとってあなたは本当に大切な存在なのです。私も主と永い時を共に過ごしてきましたが、あんなにも人間らしく振る舞う主を見たのは、何百年ぶりでしょうか」
ダミアンは嬉しそうに目を細めた。
「あなたのような人が、巫女姫で本当に良かったと、私は心からそう思います」
「そんな…………っ」
先程感じた強烈な劣等感が、再び思い出される。
巫女姫に相応しいのは、自分ではなくアリッサだ。
それは先程嫌というほどに思い知ったはずなのに、ダミアンに言われると何故、まるでアンネリーゼが自らなその期待を裏切ったかのように感じられて、じわじわとアンネリーゼの良心を苛んだ。
こんなにも心が痛むのだろう。
ほう、と切なげな溜息を零すアンネリーゼを心配そうに見つめる紫色の鋭い猛禽類のような彼の瞳がふっと細められた。
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