呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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215.魔女の過去

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「魔女が、元々は人間だったということはご存じですよね?」

アンネリーゼが少し怪訝そうな顔をしたことに気が付いたのか、アリッサは突然話題を切り替えた。

「はい。己の欲望のために魔族になったと………」
「そうですね。………では魔女が人間だった頃のことは聞いていますか?」

アンネリーゼはふるふると首を横に振った。
するとアリッサは深く頷く。

「そうですか。………彼女は、人間の頃はブレンダという名の、美しいけれど気が強い女性でした。裕福な貴族の家庭に生まれた彼女は、生まれながらに強い魔力を持っていました。……ちょうど、あなたと同じように」

アリッサが何故自分にそんな話をするのか、そして何故魔女の過去を知っているのか。
彼女の話に耳を傾けているうちに、先程感じた違和感の正体に、アンネリーゼはだんだんと気が付き始めた。


「ですがブレンダは少々傲慢で、人一倍欲張りでした。そしていつしか自分の望むものは全て手に入るのだと……何をしても許されるのだと思い込むようになっていました。それと同時に彼女の言動は過激になり、自分が気に入った男性がいれば、恋人がいようと妻子があろうと関係なく手を出したり、ドレスの仕立てが気に入らなかったというだけの理由でその仕立て屋の一家を殺させたりと、目に余るものが増え、遂に彼女は国を追われることになったのです。ちょうどその頃、美しかった彼女の容姿にも翳りが出始めました。富も権力も美貌も、ブレンダが持っていたものは全て彼女の手からすり抜けていくような気持ちになったのでしょうね。……ブレンダは、その絶望から更に欲望を膨らませたのです。永遠の命と永遠の美貌、そしてこの世の全てを思い通りに動かす力を欲し、人間よりも魔力の強い魔族に目を付けたのです。……そこからの話はダミアンから聞いていますね?」

最後の一言で、アンネリーゼははっと目を見開いた。
推測が、確信に変わっていく。

ジークヴァルトがダミアンと出会い、『血の契約』を結んだのは、アリッサが亡くなった後の出来事だ。
そして、地上での出来事を見守るのは、天界にある神々の役割であり、地上に未練があったとしても、自分の死後の出来事に死者の魂が干渉することは難しいはずだ。
以前イェルクからそんな話を聞いたのを、なぜ今まで忘れていたのだろうか。

「はい、女神様」

アンネリーゼがそう返事をするとアリッサの姿をしたははっとした表情を浮かべ、それから一拍置いて、ふわりと笑顔を浮かべて見せた。
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