呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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229.魔女のいない世界

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「では、本当に魔族の脅威は去り、今後は巫女姫の選出も必要がなくなったというのは間違いないのだな?」

禍月の魔女との決着から数か月後。
ヴァルツァー王国の王城にはフォイルゲン国王とクルツ大公、それにそれぞれの国の神官長が集まり、会議を開いていた。

「はい、間違いございません。元々巫女姫の祈りは、魔族が齎す災厄から国を守るための儀式だったそうで、『禍月の魔女』が現れてから始まったものだと、古い歴史書に明記されております」

イェルクが王たちに向かって報告書を読み上げると、王たちも蓄えた髭を撫でながら頷いた。

「だが、聖殿の権威はどうなる?民はどう思うだろうか?」
「フォイルゲン王よ、貴殿の不安は尤もだ。……だが、モルゲンシュテルン侯爵令嬢が言っただろう。女神はいつも見守ってくださっているのだと。消えたのは魔女であって、女神ではない。………それに、巫女姫が選ばれなくなったからと言って、聖殿の存在価値がなくなるわけではないだろう」

ゲルハルトがフォイルゲン王を窘めると、その迫力にフォイルゲン王は震え上がった。

「そ、そうだな………」
「つまり、今後もこの三国の繋がりはこれまで通り、ということですな」

クルツ大公がにこやかに告げるとその場にいた全員が頷いた。


ジークヴァルトとアンネリーゼ、そしてダミアンの魔法により、破壊された王都は元通りとなり、すぐに避難していた民を王都に戻すことが出来た。
その際に国王ゲルハルトが率先して民を誘導していたという。

そして、今代の巫女姫アンネリーゼ・モルゲンシュテルンと、その護衛騎士ジーク・バルテルことジークヴァルト・クラルヴァイン、そしてそのであるダミアンの活躍と、彼らの身に起きたことはヴァルツァー国民は勿論、フォイルゲン・クルツの両国にも公表した。
………ジークヴァルトが秘された辺境伯・クラルヴァインであることと、ダミアンが実は魔族であることを除いて。
ジークヴァルトは貴族の私生児であることを隠して護衛騎士となったため偽名を使っていたということにされ、今回の活躍を以て正式に爵位を与えられたことになった。
またダミアンについては力の強い魔術師の子孫という少々無理のある設定で公表されていたが、そのダミアンが魔族を説得し、人間界への介入を今後一切断つよう、掛け合った張本人だということは誰も知らない。



「こんなに騒ぎになっていれば、外出もままならないな」

モルゲンシュテルン侯爵邸の窓辺から外を眺め、ジークヴァルトは溜息をついた。

「国王と神官に嵌められましたね。注目を集めるのは好きではないんです。主、その無駄に整った顔を使って何とか出来ないんですか?」

ダミアンもうんざりとした表情を浮かべていた。

「莫迦を言うな」

そんな二人のやり取りを見つめてアンネリーゼは微笑んだ。
そしてふと外に視線を移す。

結局、フローラとギュンターはあの場で息絶えていた。
あともう少しだけ祈るのが早ければ、彼等も救うことが出来たのかもしれないとアンネリーゼは悔やんだが、因果応報だとジークヴァルトは言った。
確かに、彼等がした事、そして彼等が奪った命とて戻って来ないのは同じだ。
アンネリーゼはひっそりと、失われた命が安らかに眠れるように祈りを捧げた。




※次回、最終話です。
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