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第八十五話 せめて傍で
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皇帝のお城というからには、きっと豪華なんだろうなぁ……と、なんとなく想像していたのだけど。
「ここがお城……でございますか?」
怪訝そうな声を上げたリエーフさんと、私も同じ心境だった。私の感覚ではお屋敷の方がまだ城に近い。船で見ていた工場みたいな町並みと変わらない外観。まるで鉄屑を積み上げて作ったかのようなそれは、私が思っていたようなお城とはかけ離れていた。
中に足を踏み入れても、絨毯どころか、骨組みのまま舗装すらされていないという有様だ。むき出しの金網の下にいくつものパイプが通り、ごうごうと音を立てている。お屋敷どころか最初に泊まった宿のほうが綺麗だった。
「帝国はロセリアのように豊かでないからな。情緒などないぞ」
「これはこれで趣深いですけれども」
膝をついて、金網の下を覗き込みながらリエーフさんが答える。そういえば、私は城といえば西洋諸国のそれだけど、弟が好きなアニメやゲームはこういった様相の建物が多かったような記憶もある。男の子は好きなのかもしれない。リエーフさんを男の子と言っていいのかわからないけど。
それならレナートは……と彼を見れば、彼もキョロキョロと辺りを見回していた。だが城に興味があるという様子ではない。
「……何か視線を感じるな」
「と言いますと、霊的な?」
リエーフさんが立ち上がって問いかける。
「いや、生身の人間だ」
聞くともなしにその会話を聞きながら、私も顔を上げて辺りを見回した。
屋内といっても開けていて、上下のフロアや遠くの通路までよく見える。でも人の姿はほとんどない。
「ロセリアの幽霊伯爵と言えば今そこそこ旬な人物だからなぁ。影から見ている者も多かろうよ」
「迷惑な話だ」
フェオドラさんの感慨深げな声に、ミハイルさんが眉一つ動かさず答える。
「そうは言っても、君の戦い方はなかなかに衝撃的だ。プリヴィデーニ進攻から戻ってきて以来、寝込んでうなされ続けている者もいる。私もネメスの一件以来しばらくは電気を消して眠れなかったよ」
「全くだ。自分をためらいなく切れるなど正気の沙汰ではない。お前は痛覚がないのか」
「やめて下さい」
ミハイルさんは相手にしてなかったけど。だからといって聞こえてないわけはない。
「好きで自分を傷つける人なんていません」
プリヴィデーニの街で。
平気じゃないと彼は言ってた。
「ミオ、よせ」
二人に食って掛かろうとする私の肩をミハイルさんが掴んで止める。でも私はそれを振り払って彼を見上げた。
「どうして? 嫌なことは嫌と言うべきなんでしょう? 私は嫌です」
「俺が言ってるのは、人のことではなく自分のことでだな……」
「だから私が嫌なんです」
ミハイルさんが顔を押さえて、はぁと溜息をつく。そんな私達の間に割って入り、今度はフェオドラさんが私の肩に手を置いた。
「すまないな、ミオ。失言だった。ほらレナート、君も」
「……悪い」
「いやそこは俺に謝れ」
突っ込まずにはいられなかったらしいミハイルさんには構わず、フェオドラさんとレナートの二人が私に向かって頭を下げる。いざそうされると恐縮するもので。
「いえ。すみません、場違いな上に偉そうなことを……」
「……ん? 場違いとは? 皇帝陛下は夫人も是非にと言っていたぞ。来るものと思っていたからわざわざ言わなかったが、君が気にするなら言っておけば良かったか」
「え?」
思ってもいなかったことを聞いて私はただ戸惑うしかできなかったが、ミハイルさんや、ずっと黙っていたリエーフさんまでが同時に眉間に皺を寄せた。それを見てフェオドラさんが補足する。
「さすがに他意はないと思うが」
「一度さらおうとしておいてですか?」
そうか……真っ先に自分で気が付くべきだった。レナートを焚きつけたのも、私を襲った仮面たちも、帝国の仕業ではないかという話だった。皇帝が私を呼んだというなら、まだ私を捕らえてミハイルさんを従わせようという考えを捨てていない可能性もある。
「その件については調査中だ。功を急いだ誰かの独断で行われただけかもしれん。成功のためには手段を選ばないものなど多くいる。中佐などは可愛げのある方だな」
「フェオドラ様はどうなのですか?」
率直すぎるリエーフさんの問いに、フェオドラさんは意表をつかれたように立ち止まった。だが一瞬のことですぐにまた歩き出す。
「さあ……どうだろうな」
曖昧に答えるとフェオドラさんは足を止め、脇にあった扉を開いた。部屋の中は、さすがに床はしっかりしていていくらか内装も整っていた。豪華とは言い難いが、一応ソファとテーブルセットもある。
「暫くここで待っていてくれ。ちょうど陛下が城にいるというので直で来たが、まだ今から会えるかどうかの確認は取れていないんだ。すまんな」
そう言い残して、フェオドラさんが部屋を出ていくと、ミハイルさんは溜め息をついてソファに腰を下ろした。
「今更だが……なんでお前は皇帝に呼ばれたんだ?」
「そんなこと俺が知るか」
「まさか帝国は、お前の力を軍事利用する気じゃあるまいな」
「だから知らんと言っている」
取り付く島もなくミハイルさんに突っぱねられ、追及を諦めてレナートもソファに腰を下ろす。
「もしそうだとしたら、レナート様……イスカはどう出ます?」
探るようなリエーフさんの視線を受けて、俯いていたレナートが顔を上げる。
「どうもこうも戦って止める他にないだろう。しかし帝国とお前たちが組んだらイスカでは太刀打ちできん。それを回避するためにもおれはこんな無茶をせざるを得ない」
「だからといって皇帝を説得できるとは思わんが」
「……で、結局どうなんだ。お前は帝国につくのか」
レナートがさっきの質問を繰り返し、ややあって、ミハイルさんは床に視線を投げたまま答えた。
「そのつもりはない」
「ならお前こそ精々皇帝を説得するんだな。おれにどうこう言う前に」
それきり沈黙が訪れる。フェオドラさんが戻ってくる様子もなく、誰も喋らない。静寂が居心地悪くなってきたのと思い出したことがあって、私は口を開いた。
「そういえば、レナート。ネメスでは助けてくれてありがとう。お礼言おうと思ってたのに気がついたらいなかったから」
「あ? ああ……借りってそれか」
レナートがちらりとミハイルさんに視線を走らせる。だが彼が答えないので、私が代わりに頷いておく。
「うん、多分ね。あと、私たちのこと、そっとしておいてくれて」
「わざわざ戦意のないものと戦う必要もない。……あのレイラという幽霊にも悪いことをした。静かに暮らしてたお前らを引っ掻き回したのはおれだ」
「もういいよ。レイラも無事だったし」
幽霊に無事というのも妙な表現かとは思うけど、他に言い様もないのでそう言っておく。というか、レナートがそんなしおらしいことを言うのにも驚いた。
「だから……あまり貴方も無茶しないで」
「お前に言われたくはないな。これで貸し借りもなくなったことだし、今後おれがどうなろうともう手を出すなよ」
「う、うん……」
そう言われても、時と場合によるし。断言できず煮え切らない返事をすると、溜め息が返ってきた。でもそれを咎めることはせず、レナートが話を変える。
「それにしても遅いな。何か罠でも仕掛けているんじゃないか? もしかすると嵌められたのでは?」
「フェオドラさんはそんな人じゃありません」
そんなことを言い出されたので思わず否定してしまった。
「随分信用しているんだな」
「そういうわけでもありません。ただフェオドラさんは、私たちを捕らえるなら正面から斬りかかってくる人です」
「何故そう言い切れる」
「あなたもそうよね、レナート」
ぐっとレナートが言葉に詰まる。
「それは……そうだが。単にお前が楽観的すぎるだけではないのか」
「そうですか? でもリエーフさんは後ろから刺せる人だと思いますよ」
「そいつはお前の味方では?」
「敵味方と人となりは関係ありません」
言い切った私にレナートが呆れたように呻く。当のリエーフさんは私の失礼な言に苦言を呈するでもなくニコニコしているが、そういうところが怖いんだよね、この人は。
「まあお前の観察眼を宛にしてもう少し待つか……」
「では時間潰しにもうひとつ。ご主人様はどうでしょうか?」
「え?」
リエーフさんからの思わぬ問いに、咄嗟に答えられずミハイルさんの方を見てしまったのと、扉が開いたのは同時だった。
「待たせて済まんな。すぐ会うとのことだったが、茶席を用意しろというので手筈を整えていた。レナート、すまんが君の件は後になる。このままここで待っていてくれ」
「わかった」
「……気を付けろよ」
さすがにレナートも一緒にというわけにはいかないのだろう。レナート自身もそれは理解しているようで、食い下がることなく浮かしかけた腰をソファーに戻す。
フェオドラさんの物騒な警告にも、特に彼は表情を動かさなかった。
「委細承知だ。無茶を言って悪かった。何があっても気にするな」
「……では行くぞ、ミハイル」
顔も上げないレナートにふっと笑って、フェオドラさんが部屋を出、その後にミハイルさんが続く。レナートが心配ではあったけど、気にしたところでレナート本人が取り合ってはくれないだろうし。
……私は私で、やるべきことをしなければ。
「リエーフさん」
ミハイルさんたちには聞こえないように、扉を締めながら囁く。リエーフさんの目がこちらを向いたのを視界の端でとらえて、私は早口に先を続けた。
「ミハイルさんは……良くも悪くも、他人を傷つけるくらいなら自分を傷つけてしまう人です。だから彼が外に目を向けるなら尚のこと、傍で見ていないと」
「……ミオ様。あなたがお屋敷に来て下さったこと、わたくしは本当に嬉しく思います」
私の言葉を聞いて、リエーフさんが優しく笑いかける。……私が傍にいて、何ができるのかと言われれば答えられないんだけど。それでもそんな風に言ってもらえるのなら、せめて傍で見届けていよう。リエーフさんと共に二人の後を追いかけながら、改めてそう思った。
これからどんなことが待ち構えているのだとしても。
「ここがお城……でございますか?」
怪訝そうな声を上げたリエーフさんと、私も同じ心境だった。私の感覚ではお屋敷の方がまだ城に近い。船で見ていた工場みたいな町並みと変わらない外観。まるで鉄屑を積み上げて作ったかのようなそれは、私が思っていたようなお城とはかけ離れていた。
中に足を踏み入れても、絨毯どころか、骨組みのまま舗装すらされていないという有様だ。むき出しの金網の下にいくつものパイプが通り、ごうごうと音を立てている。お屋敷どころか最初に泊まった宿のほうが綺麗だった。
「帝国はロセリアのように豊かでないからな。情緒などないぞ」
「これはこれで趣深いですけれども」
膝をついて、金網の下を覗き込みながらリエーフさんが答える。そういえば、私は城といえば西洋諸国のそれだけど、弟が好きなアニメやゲームはこういった様相の建物が多かったような記憶もある。男の子は好きなのかもしれない。リエーフさんを男の子と言っていいのかわからないけど。
それならレナートは……と彼を見れば、彼もキョロキョロと辺りを見回していた。だが城に興味があるという様子ではない。
「……何か視線を感じるな」
「と言いますと、霊的な?」
リエーフさんが立ち上がって問いかける。
「いや、生身の人間だ」
聞くともなしにその会話を聞きながら、私も顔を上げて辺りを見回した。
屋内といっても開けていて、上下のフロアや遠くの通路までよく見える。でも人の姿はほとんどない。
「ロセリアの幽霊伯爵と言えば今そこそこ旬な人物だからなぁ。影から見ている者も多かろうよ」
「迷惑な話だ」
フェオドラさんの感慨深げな声に、ミハイルさんが眉一つ動かさず答える。
「そうは言っても、君の戦い方はなかなかに衝撃的だ。プリヴィデーニ進攻から戻ってきて以来、寝込んでうなされ続けている者もいる。私もネメスの一件以来しばらくは電気を消して眠れなかったよ」
「全くだ。自分をためらいなく切れるなど正気の沙汰ではない。お前は痛覚がないのか」
「やめて下さい」
ミハイルさんは相手にしてなかったけど。だからといって聞こえてないわけはない。
「好きで自分を傷つける人なんていません」
プリヴィデーニの街で。
平気じゃないと彼は言ってた。
「ミオ、よせ」
二人に食って掛かろうとする私の肩をミハイルさんが掴んで止める。でも私はそれを振り払って彼を見上げた。
「どうして? 嫌なことは嫌と言うべきなんでしょう? 私は嫌です」
「俺が言ってるのは、人のことではなく自分のことでだな……」
「だから私が嫌なんです」
ミハイルさんが顔を押さえて、はぁと溜息をつく。そんな私達の間に割って入り、今度はフェオドラさんが私の肩に手を置いた。
「すまないな、ミオ。失言だった。ほらレナート、君も」
「……悪い」
「いやそこは俺に謝れ」
突っ込まずにはいられなかったらしいミハイルさんには構わず、フェオドラさんとレナートの二人が私に向かって頭を下げる。いざそうされると恐縮するもので。
「いえ。すみません、場違いな上に偉そうなことを……」
「……ん? 場違いとは? 皇帝陛下は夫人も是非にと言っていたぞ。来るものと思っていたからわざわざ言わなかったが、君が気にするなら言っておけば良かったか」
「え?」
思ってもいなかったことを聞いて私はただ戸惑うしかできなかったが、ミハイルさんや、ずっと黙っていたリエーフさんまでが同時に眉間に皺を寄せた。それを見てフェオドラさんが補足する。
「さすがに他意はないと思うが」
「一度さらおうとしておいてですか?」
そうか……真っ先に自分で気が付くべきだった。レナートを焚きつけたのも、私を襲った仮面たちも、帝国の仕業ではないかという話だった。皇帝が私を呼んだというなら、まだ私を捕らえてミハイルさんを従わせようという考えを捨てていない可能性もある。
「その件については調査中だ。功を急いだ誰かの独断で行われただけかもしれん。成功のためには手段を選ばないものなど多くいる。中佐などは可愛げのある方だな」
「フェオドラ様はどうなのですか?」
率直すぎるリエーフさんの問いに、フェオドラさんは意表をつかれたように立ち止まった。だが一瞬のことですぐにまた歩き出す。
「さあ……どうだろうな」
曖昧に答えるとフェオドラさんは足を止め、脇にあった扉を開いた。部屋の中は、さすがに床はしっかりしていていくらか内装も整っていた。豪華とは言い難いが、一応ソファとテーブルセットもある。
「暫くここで待っていてくれ。ちょうど陛下が城にいるというので直で来たが、まだ今から会えるかどうかの確認は取れていないんだ。すまんな」
そう言い残して、フェオドラさんが部屋を出ていくと、ミハイルさんは溜め息をついてソファに腰を下ろした。
「今更だが……なんでお前は皇帝に呼ばれたんだ?」
「そんなこと俺が知るか」
「まさか帝国は、お前の力を軍事利用する気じゃあるまいな」
「だから知らんと言っている」
取り付く島もなくミハイルさんに突っぱねられ、追及を諦めてレナートもソファに腰を下ろす。
「もしそうだとしたら、レナート様……イスカはどう出ます?」
探るようなリエーフさんの視線を受けて、俯いていたレナートが顔を上げる。
「どうもこうも戦って止める他にないだろう。しかし帝国とお前たちが組んだらイスカでは太刀打ちできん。それを回避するためにもおれはこんな無茶をせざるを得ない」
「だからといって皇帝を説得できるとは思わんが」
「……で、結局どうなんだ。お前は帝国につくのか」
レナートがさっきの質問を繰り返し、ややあって、ミハイルさんは床に視線を投げたまま答えた。
「そのつもりはない」
「ならお前こそ精々皇帝を説得するんだな。おれにどうこう言う前に」
それきり沈黙が訪れる。フェオドラさんが戻ってくる様子もなく、誰も喋らない。静寂が居心地悪くなってきたのと思い出したことがあって、私は口を開いた。
「そういえば、レナート。ネメスでは助けてくれてありがとう。お礼言おうと思ってたのに気がついたらいなかったから」
「あ? ああ……借りってそれか」
レナートがちらりとミハイルさんに視線を走らせる。だが彼が答えないので、私が代わりに頷いておく。
「うん、多分ね。あと、私たちのこと、そっとしておいてくれて」
「わざわざ戦意のないものと戦う必要もない。……あのレイラという幽霊にも悪いことをした。静かに暮らしてたお前らを引っ掻き回したのはおれだ」
「もういいよ。レイラも無事だったし」
幽霊に無事というのも妙な表現かとは思うけど、他に言い様もないのでそう言っておく。というか、レナートがそんなしおらしいことを言うのにも驚いた。
「だから……あまり貴方も無茶しないで」
「お前に言われたくはないな。これで貸し借りもなくなったことだし、今後おれがどうなろうともう手を出すなよ」
「う、うん……」
そう言われても、時と場合によるし。断言できず煮え切らない返事をすると、溜め息が返ってきた。でもそれを咎めることはせず、レナートが話を変える。
「それにしても遅いな。何か罠でも仕掛けているんじゃないか? もしかすると嵌められたのでは?」
「フェオドラさんはそんな人じゃありません」
そんなことを言い出されたので思わず否定してしまった。
「随分信用しているんだな」
「そういうわけでもありません。ただフェオドラさんは、私たちを捕らえるなら正面から斬りかかってくる人です」
「何故そう言い切れる」
「あなたもそうよね、レナート」
ぐっとレナートが言葉に詰まる。
「それは……そうだが。単にお前が楽観的すぎるだけではないのか」
「そうですか? でもリエーフさんは後ろから刺せる人だと思いますよ」
「そいつはお前の味方では?」
「敵味方と人となりは関係ありません」
言い切った私にレナートが呆れたように呻く。当のリエーフさんは私の失礼な言に苦言を呈するでもなくニコニコしているが、そういうところが怖いんだよね、この人は。
「まあお前の観察眼を宛にしてもう少し待つか……」
「では時間潰しにもうひとつ。ご主人様はどうでしょうか?」
「え?」
リエーフさんからの思わぬ問いに、咄嗟に答えられずミハイルさんの方を見てしまったのと、扉が開いたのは同時だった。
「待たせて済まんな。すぐ会うとのことだったが、茶席を用意しろというので手筈を整えていた。レナート、すまんが君の件は後になる。このままここで待っていてくれ」
「わかった」
「……気を付けろよ」
さすがにレナートも一緒にというわけにはいかないのだろう。レナート自身もそれは理解しているようで、食い下がることなく浮かしかけた腰をソファーに戻す。
フェオドラさんの物騒な警告にも、特に彼は表情を動かさなかった。
「委細承知だ。無茶を言って悪かった。何があっても気にするな」
「……では行くぞ、ミハイル」
顔も上げないレナートにふっと笑って、フェオドラさんが部屋を出、その後にミハイルさんが続く。レナートが心配ではあったけど、気にしたところでレナート本人が取り合ってはくれないだろうし。
……私は私で、やるべきことをしなければ。
「リエーフさん」
ミハイルさんたちには聞こえないように、扉を締めながら囁く。リエーフさんの目がこちらを向いたのを視界の端でとらえて、私は早口に先を続けた。
「ミハイルさんは……良くも悪くも、他人を傷つけるくらいなら自分を傷つけてしまう人です。だから彼が外に目を向けるなら尚のこと、傍で見ていないと」
「……ミオ様。あなたがお屋敷に来て下さったこと、わたくしは本当に嬉しく思います」
私の言葉を聞いて、リエーフさんが優しく笑いかける。……私が傍にいて、何ができるのかと言われれば答えられないんだけど。それでもそんな風に言ってもらえるのなら、せめて傍で見届けていよう。リエーフさんと共に二人の後を追いかけながら、改めてそう思った。
これからどんなことが待ち構えているのだとしても。
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