勇者のおまけも大変だ!【改稿版】

見崎天音

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第三章 討伐編

第2話 完全犯罪は不完全なり

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 深夜の神殿は、何度来てもちょっと怖い。

 アヤカの部屋に転移して、ミリアさん達、アシストレンジャーの5人と、ディランさん達専属護衛の4人、国王様、王妃様、メアリー様に宛てた手紙を寝室のドレッサーの上に置き、岩ちゃんと共に神殿に来たのだ。

 手紙の内容はだいたい一緒で、アヤーネとして討伐隊を追いかけること、これはもともと自分の使命であることを記載し、国王様には専属侍女のミリアさん達3人と護衛の4人はこのことを知らなかったので責めないでほしいことを書き足した。

 その上で、オル様達に王宮に私がいないことを悟られないようにしてほしい旨お願いをしておいたのだ。

 ここで国王様達が騒いだりするとばれちゃうからね。
 オル様達には何の憂いもなく悪鬼王討伐に赴いていただきたい。



「レミリン! いよいよ出発するのね。あら、今日はアヤーネの姿ね」

「ほんとだわ。黒髪、黒目だとマリアに似てるけど、色と髪型が違うだけでこうも別人に見えるのね。ああなるほど、メイクで印象も変えているからね」

「本当ね。女の子はお化粧でこうも顔が変わるのね。これは誰も気が付かないわけね」

「フフフ。顔の印象は目元のメイクの仕方で変わるんですよ。マリア様、エバ様、今日の夜明け前にここを出発します」

「うん。私達に用事があるときは各町の神殿に来てちょうだい。神殿から神殿へは転移させられるから、覚えておいて。転移してほしい人や物をレミリンの魔力で包んでくれればいいわ。ちょうど結界を張る要領よ」

「ねえ、やっぱり、レミリン一人で行かせるのは心配だわ。どう思う? マリア」

「そうなのよ、エバ。私もそう思ってたところよ。とっても心配よね。あ! じゃあ、この岩ちゃんに私達の加護を与えて一緒に行かせましょう」

「! さすが、マリア。でもゴーレムの姿じゃあ、目立つわね。よし、聖霊魔法で姿を人間に変えちゃいましょう」

 ええ? 岩ちゃんを人間に?
 思いもかけない女神様達の発案にまごまごしているうちに岩ちゃんが淡い光に包まれた。
 眩しさに目を閉じていると瞼に感じていた光が止んだ。
 そっと、目を開けると、そこには艶のある青いフワフワのくせ毛に深い青い瞳の10歳くらいの男の子が立っていた。

 あれ? 髪の毛と瞳の色が違うけど、どっからどう見てもライだよね?
 まだ私が子供の姿のときにダンスのレッスンに付き合ってくれたライモン・リースマン。

 騎士団に入団してからは会う機会がなかったけど、たまに剣術の稽古と魔術の訓練に通っていると噂で聞いたけど。

「えっと、これはライをモデルにしたんですか? っていうか、色が違うだけでほぼ本人にしか見えませんけど?」

「ん? ライ? レミリンの記憶の中で岩ちゃんと同じくらいの身長の子を形どってみたのよ。どう? これなら、弟と一緒に旅をしているってことにできるでしょ? おおもとは、岩ちゃんだから三日に一回はレミリンの魔力を注いであげてね。そうしないと、動けなくなっちゃうから。あと、レミリンとお揃いのブレスレットもつけといたわ。性能は一緒だから」

 えっ、弟? うっわあ! 良いね、すっごく良い。
 私の弟!

「じゃあ、名前をつけてあげて」

 名前か。
 ん……。

「シアン。名前はシアン・ヒムーロにします。よろしくね、シアン。私のことはアヤーネって呼んでね。あ、えっと、しゃべれるのかしら?」

「はい。名前をありがとうございます。アヤーネ様」

 か、可愛い!
 何ですか、この可愛い生き物は!
 お姉さんを悶絶させる気ですか?!

「シアン、どうせ呼んでくれるなら、えっと、その、姉様が良いわ」

「はい。アヤーネ姉様」

 はい! 天使からお姉様の称号をいただきました。

「エバ様、ありがとうございます。心強い旅の仲間ができてうれしいです」

「あら、なんだかエバだけずるいわ。じゃあ、私は、シアンに天才的な頭脳と膨大な魔力を授けるわ。シアンは経験したことを、自分の知識として吸収するから一緒にいるうちにどんどん賢くなるわよ。きっと役に立つわ」

「わあ! マリア様もありがとうございます」



 その後、シアンの旅の支度を女神様達が手伝ってくれた。

 マリア様はどこからか子供用の聖剣を手に入れてきて、エバ様はシアンの体のサイズに合う旅の装束を数着持ってきてくれた。

『使ってないみたいだからもらってきた』とお二人は言っていたけど、いったいどこから拝借してきたのかしら?
 ちょっと怖くて突っ込めない。

 シアンの荷物はエバ様がつけてくれたブレスレットに収納して準備はオッケー。
 さあ、寮に帰って少し仮眠をとったら出発しますか。


 **************



 まだ暗い夜明け前、騎士団の厩からネージュを引いて裏門へと歩く。
 右手にネージュの手綱を握り、左手に出来立てほやほやの弟と手をつなぐ。
 裏門に取り付けられた明かり魔石に無表情のシアンの顔が照らされた。
 その顔ににっこりと笑いかけると、同じようににっこりと笑う。
 あまりの可愛さに頭を撫でてあげると、やっぱり同じように私の頭を撫でる。
 背伸びをしながら一生懸命に手を動かす姿にひとしきり悶絶。

 これはあれか、シアンはきっと私の表情や行動から人間のことを学習しているにちがいない。
 なんたって人間になりたてだものね。
 これは責任重大だわ。
 りっぱな人間として見本にならなくては。

 裏門に着くと、門番がいないことを確認。
 作戦成功だ。
 門番の勤務表にちょっと手を加えて10分ほど無人状態を作っておいたのだ。

 あれ? でもなんで門の鉄柵まで開いているんだろ?
 まあ、良いか。この鉄柵、重いから開けるの大変だなぁと、思ってたからちょうど良いや。

「よし、じゃあ、シアン、行こう。ネージュに乗るのはもう少し明るくなってからね」

 夜明け前の薄暗がりの中、ゆっくりと進み裏門を後にした。

「遅いぞ、アヤーネ。待ちくたびれた」

 突然かけられた声に心臓がありえないほど飛びはねた。
 だ、誰?!

 木陰からふらりと現れた人影を凝視する。
 月明りに照らされたその人は……。

「リ、リベルト? な、な、な、なんで?」

「わたくしもいますわよ、アヤーネ。いつまでたっても来ないから少し寝てしまったわ」

「え、え、え?! シモンヌ?」

「ちょっと、アヤーネ。まさか、夜食を食べてて遅くなったなんてことないでしょうね?」

「げっ、マークスさんまで! なんでここに3人ともいるんですか?」

「アヤーネと一緒に行くつもりだからだよ」

「え? 一緒に? ど、ど、どこへ?」

「アヤーネが討伐隊に付いて行こうと企んでたことは、お見通しですわよ。リベルトにギルドの場所聞いたり、野営の必需品を聞いたりと、ずいぶんわかりやすかったですわ。わたくし、怒っているのよ。相談してくれないなんてひどいですわ」

「そうだぞ。いつ言ってくれるかと思って待ってたんだけどな。言ってくれなかったから、俺達も勝手に付いて行くことにした。カミラとシャーリーは思いがけず、討伐隊に選ばれたがな。でもこれでカミラとシャーリーから討伐隊の進捗状況が入るから結果的に良かった」

 そう言いながら、リベルトは自分のケモ耳につけたグリーンのピアスに触れた。
 あれって共鳴魔石?

「あたしなんて、ギルドに冒険者登録してるアヤーネを見たときは目を疑ったわよ。あの買い物中に後つけて行って正解だったわ」

 なんと!
 乙女の秘密の買い物が秘密じゃなくなっていた。

「ご、ごめん……。だって皆に迷惑がかかると思って。本当にごめんなさい」

「ねえ、どうでもいいけど、その子は誰なの?」

 へ?
 マークスさんの視線の先にシアンが。

「あ、えっと、私の弟のシアンです」

「そんなわけあるか!」

「そうよ、無理がありすぎよ」

「アヤーネ、駄目ですわよ。すぐに元居た場所に返していらっしゃい」

 いやいや、ちょっとまってよ、シモンヌ、捨て猫じゃないんだから。

「あら? ちょっとこの子。見たことあるわ。あ! リースマン伯爵家のご令息じゃない。確か、ライモン様よね? 髪の毛と瞳の色が違うけど。やだ、まさかライモン様も討伐隊に? もう、10代の男の子ってそういうの好きよね。で、リースマン伯爵は知ってるの? ライモン様がいなくなって今頃騒ぎになってるんじゃない?」

「ええと、リースマン伯爵家では、まったく騒ぎにはなってないです。そもそも、シアンのことを気にかけてないし。ね、シアン?」

 そう言いながら笑顔を向けるとシアンが笑顔で答える。

「はい、アヤーネ姉様。騒ぎには、なってないです。僕、アヤーネ姉様と一緒に行かないと、帰るところがありません」

「んまあ! 帰るところがないですって?! ああ、そういえば、ライモン様は確か、養子だったわね。こんなまだ子供に討伐が終わるまで帰るななんて、リースマン伯爵は何を考えてるのかしら。わかったわ。こうなったらあたしも協力するわ。悪鬼王討伐を私達の手で成功させてリースマン伯爵をぎゃふんといわせましょう!」

 マークスさんの興奮した様子にリベルトとシモンヌまで鼻息を荒くして頷く。

 こ、これは、完全にシアンをライだと誤解してるよね?
 そんでもって、リースマン伯爵から冷たい扱いを受けている血のつながらない養子の設定?

 ど、どうしよう。
 なんだか、まだ会ったこともないリースマン伯爵の人格が地に落ちているような気がするけど。

 ……しょうがない。
 ここはリースマン伯爵に犠牲になってもらいましょう。

 こうして私の完全犯罪は不完全に終わり、悪鬼王討伐隊を追いかけるために5人で王宮を後にしたのだった。
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